肥満症と脳腸相関…ホルモン、腸内細菌叢が関係する
糖尿病・脂質異常症・高血圧症・心臓病・脳卒中といった生活習慣病のひとつである肥満症は、脳腸相関と関係することがわかっています。
それを考えるにあたり、まず、「肥満」と「肥満症」は別の状態であることを知っておきましょう。
肥満は、日本肥満学会が『肥満症治療ガイドライン2022』で「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI:Body Mass Index)が25以上のもの」と定義しています(意訳)。
BMIとはよく知られるように、[体重(㎏)]÷[身長(m)の2乗]で計算します。ご自身の身長と体重で計算してみてください。
たとえば、身長が170㎝なら、体重が約72.5㎏以上で肥満と判定されます。ただし、肥満は病気ではなく、体の状態を指しているに過ぎません。
一方、肥満症とは、「肥満に加えて糖尿病、高血圧、脂質異常症などの健康問題があり、医学的に体重を減らす治療が必要な状態」と同ガイドラインで定義され(意訳)、病気として分類されます。
脳腸相関と肥満症の関係を、44歳の男性Aさんの例で考えましょう。紹介する症例は複数のケースから作成したもので、医学報告では仮想症例や仮想患者といいます。
Aさんは、身長172㎝・体重80㎏・BMI27です。直近の健康診断で脂質異常症を指摘され、肥満症と診断されました。医師からは、食事や運動の習慣を改善するようにとの指導を受けています。ただ、ここ数年間は体重の変化がないこと、同じような生活をしている同僚が肥満ではないことから、「ほかにも肥満の原因があるのでは?このごろ話題の腸内細菌叢は関係あるの?」と、医師に尋ねました。
近年の研究では、「肥満の原因は生活習慣だけではなく、腸内細菌の関わり」も指摘されています。たとえば、腸内細菌がいない無菌状態で育てられたマウスは肥満しにくく、腸内細菌がエネルギーの吸収に関係していると考えられています*2。
また、マウスに菌由来のリポ多糖を少量持続投与すると、高脂肪食を摂取したマウスと同じように、肥満、インスリン抵抗性(膵臓から血中に分泌されるホルモンであるインスリンの作用が鈍い状態)、および耐糖能異常(糖尿病と診断されるような高血糖ではないが、血糖値が正常より高い状態)が生じたという報告があります*3。
そうした研究から、「腸内細菌叢と肥満は関係がある」と考えられています。
さらに食欲は、「ガストリン」「コレシストキニン」「グレリン」のように腸管から分泌されるホルモンが脳に情報を伝えて調整されます。
「肥満の原因は、食べ過ぎや運動不足だけではなく、脳、腸の内分泌(ホルモン)、腸内細菌叢の状態による複雑な脳腸相関が関係している」わけです。同じダイエット法を実践した場合に、効果に差が生じるのは、その人のがんばりの問題だけではないのです。













