うつ病と脳腸相関…セロトニン、腸内細菌に着目

うつ病では、気分が極端に落ち込む、悲観的になる、絶望や深い悲しみを感じる、同時に、イライラする、集中できない、不安を感じる、眠れなくてつらいという症状が現れます。それに、「便秘や下痢もうつ病の特徴的な身体的症状のひとつ」です。

うつ病と脳腸相関の関係を、35歳の男性Cさんの例で見てみましょう。

Cさんは職場で昇進し、責任が増えました。その影響か最近眠りが浅く、日中の業務に集中できなくなり、効率が下がったと感じています。排便の回数や量も減り、食欲が落ちてきました。産業医に相談したところ、「うつ病の可能性がある」とのことで、精神科を紹介されました。

うつ病は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンが不足することで発症すると考えられています。これらの物質は、気持ちを安定させる、睡眠を調整する、やる気を起こさせるなどの役割がありますが、不足することで、元気がなくなる、眠れなくなるなどの症状が起こります。

とくに睡眠障害はうつ病の初期から現れ、回復期の最後まで残りやすい症状です。

うつ病の治療では、軽症の場合は休養をとり、睡眠環境を整えることや心理療法などが勧められます。

しかし改善しない場合や中等症・重症の場合は治療薬として、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害して神経伝達物質の作用を高める「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」や「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)」、セロトニンとノルアドレナリンの分泌を増やす「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)」などが使われます。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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このように、セロトニンはうつ病の治療に欠かせない物質ですが、腸との関わりが深いことがわかっています。

体内のセロトニンの90%以上は小腸でつくられ、消化管のぜん動運動を促します。その産生には腸内細菌の代謝産物が関わっていて、腸管のセロトニンが増えると下痢や吐き気が起こり、減ると便秘になる傾向があります。また、睡眠と腸内細菌叢も深く関係しています。

そこで、便秘がうつ病と関連する理由としては、「脳のセロトニンの減少→睡眠障害→腸内細菌叢の変化→腸管での代謝物の減少→腸管でのセロトニン産生の低下→便秘」という脳腸相関の経路が考えられます。

また、「うつ病の患者さんとそれ以外の人では、腸内細菌叢の状態が違う」「腸内細菌が自律神経や短鎖脂肪酸などと関係して、うつ病や不安症に影響する」という報告もあります。つまり、睡眠障害とは別に、「腸内細菌叢の状態もうつ病や不安症のリスクになる可能性」が指摘されているのです*1