「腸管神経系」は脳の指令がなくても自ら働く
まずは、「腸管神経系」のつくりと、その特有の働きに注目しましょう。
体を会社にたとえると、脳は本社、腸などほかの臓器は支社に相当します。腸は支社の中でも体積が大きくて役割も多いため、「腸管神経系(ENS:Enteric Nervous System)」と呼ばれる独自の情報システムを持ち、自律的に働いています。
この「腸の自律性」こそが、脳腸相関を理解するポイントとなるのです。
腸の自律性とは、「腸管神経系によって、腸は脳の指令がなくても、食べものの消化のための消化液の分泌や内容物を送り出すためのぜん動運動、ホルモンなどの分泌、血流の調整、免疫反応、体全体を守るバリア機能の管理を行う」ということです。こうした腸管神経系の働きが、「腸は第2の脳」といわれる理由です。
消化管と腸管神経系のつくり
腸管神経系とはどうなっているのか、そのつくりをのぞいてみましょう。
腸管神経系とは、主に食道から直腸(大腸の一部で肛門の直前にある)までつながる消化管の壁の内側に、網目状に張りめぐらされた神経ネットワークの総称です。
これは、「筋層間神経叢」と「粘膜下神経叢」と呼ぶ2つの神経叢からできています。漢字が込み入っていますが、よく読むと文字通り、「叢」は腸内細菌叢の叢と同じで、草が群がって生えているところを意味し、神経叢とは神経が網目状につながった構造を指しています。
それぞれの神経叢を理解するために、ここで消化管のつくりについて触れておきます。
図1と図2を見てください。消化管は筒状の臓器で、食道から直腸の壁はバウムクーヘンのように何層にも重なった構造をしています。その構造は臓器によって少しずつ違いますが、多くは筒の内側から外側に向かって、「粘膜」「粘膜下層」「筋層(内側の輪状筋、外側の縦走筋)」「しょう膜」の順に重なっています。
このもっとも外側のしょう膜は、おなかの内側を覆う膜と連続していて、その一部は「腸間膜」と呼ばれます。腸間膜があることで、腸はおなかの中である程度自由に動くことができます。
腸の働きにとって重要なぜん動運動は、筋層の輪状筋と縦走筋が交互に伸び縮みすることで生じています。
そして、腸管神経系のつくりですが、まず、2つの筋層の間に存在しているのが筋層間神経叢で、発見者の名前にちなんで「アウエルバッハ神経叢」とも呼ばれます。その働きは、「ぜん動運動をコントロールすること」であり、食道から肛門までの消化管全体に存在します。
もうひとつの粘膜下神経叢は、粘膜下層の組織に存在し、同様に「マイスナー(マイスネル)神経叢」とも呼ばれています。その働きは、「粘膜の血流や消化液の分泌、栄養の吸収をコントロールすること」で、主に小腸と大腸に存在します。前述のとおり、腸管神経系は主にこの2つの神経叢で成り立っています。
実はこの2つの神経叢の発見も1800年代後半です。脳腸相関を考えるうえで腸管神経系は、それほど昔から知られてきた知識といえるでしょう。
「腸は第2の脳」という言葉を提案したとされるコロンビア大学の神経生物学者のマイケル・D・ガーションは、著書『セカンド・ブレイン』で「腸にも脳がある」と述べています。たしかに、腸管神経系の働きやつくりから、腸の中にも一種の脳があるとイメージすると、脳腸相関のしくみが理解しやすい、とわたしは考えています。













