芸術が「暮らし」を通じて人々を豊かにするとき

――本日は、塚原龍雲さんの新著『なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想』(集英社新書)発刊を機に、お二人に対談をお願いしました。森さんと塚原さんはそれぞれのご活動を通じて、現代の優れた工芸職人たちと協働しています。かつ、日本の工芸に宿る価値観や美意識を、これからの社会における鍵ととらえている点も共通するように感じます。そこで今回それぞれのお立場から、このテーマをめぐってご意見を交わしていただけたら幸いです。

塚原 どうぞよろしくお願いします。森さん、初めまして。今日はありがとうございます。

 こちらこそ、よろしくお願いいたします。今回このご縁をいただいたことは、私にとって大きな意味があると思っています。塚原さんの新刊は、私がいま進めている取り組みにもすごくつながる気がしていて、心に響く言葉がいくつもありました。私は4年前に「tefutefu」という会社を始め、日本の衣・食・住にまつわる文化や美学を国内外に発信する取り組みを続けています。また同時期に関東圏内で古民家の農村建築を再生し、拠点として活用する計画も進めています。

塚原さんのご著書は、私がその頃からずっと感じていたのと近い思いを、素敵でわかりやすい言葉になさっていると感じました。私の場合は感覚的に動き出したところもあったので、当初は自信もあまりなくて、でもこれから生きる上で大事なことのような気がする——そんな始まり方でした。だから塚原さんの言葉にふれて、自分も間違った方向には行ってなかったなという安堵の気持ちをもらえたというか、何だか仲間のような気持ちになれました!

森星さん(左)、塚原龍雲さん 撮影:三好祐司(右)
森星さん(左)、塚原龍雲さん 撮影:三好祐司(右)
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塚原 ありがとうございます。実は森さんとは以前、雑誌『Forbes JAPAN』が注目するカルチャープレナー(45歳以下の「文化起業家」)に選出された際に同じ誌面でご紹介いただいたこともあり、今回お会いできた上にそうした言葉をいただけたのは本当に嬉しいです。農村建築をご改修中とのお話を伺いました。

 そうなのです。築約150年前の古民家に出会いがあり、ここを活かせたらと購入を決めました。

塚原 そうでしたか。実は僕らの会社KASASAGIでもいま、改修をお手伝いさせていただいている古民家があり、茅の葺き替えなどをやっています。

 私の古民家がある地域の皆さんはご自分たちでものづくりのできる人たちが多く、地域の方々にもご協力をいただきながらつくり上げています。それぞれの改修が済んだらお互いに見に行きたいですね。

塚原 ぜひぜひ。嬉しいです。

 ここを思い切って購入したのは、良い空間があると、やりたいことや伝えられることも広がると思ったからです。プロジェクトは「ikikata」と名付け、まさに今後の「生きかた」を考え、学ぶ場になればと思っています。塚原さんも、いわゆる美術品を見る・たしなむだけではなくて、暮らしの中に取り入れ、暮らしを豊かにすることの意味を書いておられますよね。「人類の幸福の最大化」という言葉も印象的でした。

私も芸術とは本来、「暮らし」を通じて豊かになれる点に大きな役割があるように思います。ですから「ikikata」の取り組みでもそれを体現するものを展示したり、直に触れる機会を作ったりできたらと考えています。工芸品だけではなくて、例えば日本には秋の夜に「虫の声を聞く」ことで季節などを感じ取るという行為が文化として伝わってきたユニークな面もありますよね。そんな風に、感性を豊かにできる場をつくれたらと思っています。