国民民主党が「玉木首相」に慎重なのはなぜか?

「高市トレード」は高市総裁の積極財政への期待感を背景にしたものだ。円安が進行して株高を誘引し、債券安が起こるという3点セットが特徴だ。高市氏は必要であれば赤字国債もためらわない姿勢を打ち出しており、ここが一番のポイントだった。

10月12日に高市総裁は自身のXに税制調査会長人事に関する投稿を行なっている。その中で、「財務省出身の税の専門家だけで税制調査会の役員を固めるのではなく、憲法上「全国民の代表者」として国会に送って頂いた国会議員達が必要だと考える」とのコメントを残した。税制において財務省よりも国民に目を向けたのだ。

自民党の高市早苗新総裁(本人SNSより)
自民党の高市早苗新総裁(本人SNSより)
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高市総裁は税制調査会長の人事で、減税派との対立を深めた宮澤洋一氏を退任させ、小野寺五典前政調会長の起用を固めた。宮澤氏はガソリン暫定税率廃止後の代替財源の提案を野党側に求め、「年収の壁」を巡っては103万円の壁を守る「ラスボス」と呼ばれた。

その宮澤氏の退任によって、代替財源を伴わないガソリン暫定税率廃止や、年収の壁の引き上げが視野に入ってきたわけだ。それに伴って赤字国債を増発することになれば、債券価格が下落して円安が進行、株高が進むことになる。 

日経平均が史上初の4万8000円に押し上げられたのは、高市総裁が首相に選出されてこの「サナエノミクス」が動き出すことへの期待感が大きかった。しかし、公明党の離脱で首相就任に暗雲が立ち込めたわけだ。

ただし、足元の状況を見ると高市氏が首相に選出される可能性は依然として高そうだ。なにしろ、野党の足並みがそろっていない。

野党第一党の立憲民主党は野党候補の一本化を図り、政権交代を虎視眈々と狙っている。立憲民主党の安住淳幹事長は、国民民主党に対して「玉木首相」も辞さない考えを示した。しかし、玉木代表は基本政策の違いを理由に共闘体制を牽制している。

国民民主党最大の支持基盤である、連合の芳野友子会長も源流が同じ立憲民主と国民民主の連携を歓迎していた。 

しかし、議席数がまったく違う両党が組んで玉木代表が首相になれば、そのかじ取りの難易度の高さは想像に難くない。仮に短期間で政権運営に失敗することになれば、玉木氏に責任だけを負わされ、党の勢いをいっきに失う結果になりかねない。

また、国民民主はSNSを使った無党派層の取り込みに力を入れている。今はむしろ連合からは一定の距離を取りたいはずだ。

そして、今の自民党と連携しても過半数が取れないために与党入りも意味がない。

国民民主党にとっては自民党とも立憲民主党とも組まず、距離をとりながら政策実現を訴えて国民の支持を集め、解散総選挙に備えて党勢を拡大することが最善手なのだ。