緊張を取る呼吸法

かつての僕は、大きな試合のとき、気合のあまり無駄な力が入っていました。100%の力を出そうとして、空回りしていた。そこで7、8割ぐらいの力を心がけると、120%の力が出せるようになりました。

たとえて言うなら、スケートリンク場で立ち幅跳びをしようとします。思い切り跳ぼうとしたら、たぶん滑って転ぶでしょう。でも70%ぐらいの力で、滑らないように跳ぼうとすれば、転ばずに跳べるかもしれません。この力加減が、スキージャンプで飛ぶときと同じような感覚なのです。

ジャンプで「力を抜く」というのはそういうことで、100%の力を出したら、間違いなく飛べません。

そして7、8割に力を抑えることで生まれる、2、3割の余裕。その余裕と、興奮して脳から出ているアドレナリンが嚙み合うのか、急に途轍もない飛距離が出るのです。

スキージャンプの葛西紀明さん 撮影/野辺竜馬
スキージャンプの葛西紀明さん 撮影/野辺竜馬
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飛ぶ前には、呼吸法で息を整えながら笑顔をつくり、歯の隙間から息を吐いて飛んでいます。

呼吸法のやり方は、

① 胸いっぱいに深呼吸して、息を止める。
② そこからさらに限界まで息を吸う。
③ 歯の隙間から、ゆっくり息を吐いていく。

これを2、3回繰り返すと脈拍が下がり、緊張も消えます。

笑顔と呼吸法でリラックスすることで、無駄な力が抜けます。理論的なことはわかりませんが、7、8割に抑えた力にアドレナリンが作用することで、爆発的な力が出るのではないかと思っています。

この「7、8割の力加減」は小林陵侑にも教えたのですが、陵侑は「2、3割で飛んでいます」と言っていました。10あるうちの2、3割の力しか出さないと。僕よりも力が抜けていて、瞬時にパワーを発揮する。だから現在、世界のトップで戦えているのでしょう。