単なる失言ではない。国家運営がバグを起こしている証拠

政治家、とりわけ一国のリーダーである総理大臣の言葉は、それ自体が外交であり、国益を左右する武器であり防具である。しかし、先日の衆議院予算委員会における高市早苗首相の発言は、武器どころか、日本の国益を傷つける「凶器」となってしまった。

高市首相は、台湾周辺で中国軍が海上封鎖を行った場合について、「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても『存立危機事態』になり得る」と断言した。さらに、「米軍が来援し、それを防ぐために武力行使が行われる」というシナリオまで具体的に語ってみせた。

一見、勇ましく頼もしいリーダーの発言に見えるかもしれない。しかし、冷静に、そして論理的にこの発言を解剖していくと、そこには外交、安全保障、法律、そして経済に対する恐るべき「無知」と「無能」が横たわっていることがわかる。

G20での高市総理(本人Xより)
G20での高市総理(本人Xより)

これは単なる失言ではない。国家運営がバグを起こしている証拠である。なぜこの発言がそれほどまでに致命的なのか、高市首相の愛国的態度には敬意を表している私ではあるが、今回は感情論を一切排し、努めて冷静に理屈、論理で検証していきたい。

アメリカの政治状況を少しでも理解していれば…

高市首相の描くシナリオの最大の欠陥は、「アメリカ軍が必ず助けに来る」ということを、勝手に前提にしている点だ。首相は「米軍が来援する」と断言した。

しかし、現在の国際情勢、特にアメリカの政治状況を少しでも理解していれば、これがどれほど危うい空想であるかがわかる。

アメリカ、特にトランプ政権の外交方針は「アメリカ・ファースト」である。自国の利益にならない戦争には関わらない、同盟国には自分の国は自分で守れと言う、そして何より「コスト」を嫌う。

中国という巨大な国と戦争になれば、アメリカにも甚大な被害が出る。そのため、アメリカはこれまで「台湾を守るかどうかはあいまいにしておく(戦略的曖昧さ)」という高度な外交テクニックを使ってきた。あえて明言しないことで、中国を牽制してきたのである。