「多数性を否定しようとする権威主義に対して、私たちは戦っていかねばならない」テクノロジーに支えられた政治的思考「プルラリティ」とは
市民による政治参加とテクノロジーを結びつけた台湾の政治家、オードリー・タン。公正な市場と民主主義を結びつけ、私的所有に切り込んだ経済学者、グレン・ワイル。二人による共著『PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義』は、多様性を否定する権威主義的な思考が蔓延る昨今において、政治的思考を養うための希望の書である。民主主義を再生するためのテクノロジーとは? 政治学者の宇野重規氏がプルラリティを解説する。
民主主義の再生のカギはテクノロジーの支援
筆者は「Plurality」の前提になっている危機意識を深く共有する。人工知能は中央集権化されたトップダウンの統制を強化し、ブロックチェーンは人々を孤立させ、過激な見方に走らせるかもしれない。さらに、専制主義勢力はSNSなどを利用して、民主主義国家内部の分断や紛争を煽り立てている。その意味で、現代世界において優位に立つのは、テクノクラシーとテクノ・リバタリアンの影響ばかりなのかもしれない。
しかし私たちは無力ではないはずだ。テクノクラシーとテクノ・リバタリアンに対抗して、今こそデジタル民主主義のポテンシャルを活性化すべきなのではなかろうか。民主主義を再生させるために、私たちは今こそ力を合わせなければならないが、本書はそのための勇気を与えてくれる。
政治学者・宇野重規氏
多数性(複数性)を否定しようとする権威主義に対して、私たちは戦っていかねばならない。そのためにはテクノロジーに支えられた政治的思考が不可欠である。本書をそのための宝箱として活用する読者が一人でも増えることに期待している。
文/宇野重規
PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来
オードリー・タン (著)、 E・グレン・ワイル (著)、 山形浩生 (翻訳)、⿻ Community (その他)
2025/5/2
3,300円(税込)
624ページ
ISBN: 978-4909044570
世界はひとつの声に支配されるべきではない。
対立を創造に変え、新たな可能性を生む。
プルラリティはそのための道標だ。
空前の技術革新の時代。
AIや大規模プラットフォームは世界をつなぐと同時に分断も生んだ。
だが技術は本来、信頼と協働の仲介者であるべきだ。
複雑な歴史と幾多の分断を越えてきた台湾。
この島で生まれたデジタル民主主義は、その実践例だ。
人々の声を可視化し、多数決が見落としてきた意志の強さをすくい上げる。
多様な声が響き合い、民主的な対話が社会のゆく道を決める。
ひるがえって日本。
少子高齢化、社会の多様化、政治的諦観……。
様々な課題に直面しながら、私たちは社会的分断をいまだ超えられずにいる。
しかし、伝統と革新が同時に息づく日本にこそ、照らせる道があると著者は言う。
プルラリティ(多元性)は、シンギュラリティ(単一性)とは異なる道を示す。
多様な人々が協調しながら技術を活用する未来。
「敵」と「味方」を超越し、調和点をデザインしよう。
無数の声が交わり、新たな地平を拓く。
信頼は架け橋となり、対話は未来を照らす光となる。
現代に生きる私たちこそが、未来の共同設計者である。
実験の民主主義 トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ
宇野重規 著/若林恵 聞き手
2023/10/23
1,100 円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4121027733
デジタルが社会を一変させるなか、政治は分断を生み、機能不全が深刻だ。なぜ私たちは民主主義を実感できないのか? 本書は、19世紀の大転換期を生きたトクヴィルの思索と行動を手がかりに、平等・結社・行政・市民のイメージを一新し、実験的な民主主義像を描き出す。新しい技術が人々の想像力を変えた歴史を捉え、民主主義論の第一人者がフランス革命・アメリカ建国後の政治史を解説。AI時代の社会像と人間像を探究する。
テクノ専制とコモンへの道 民主主義の未来をひらく多元技術PLURALITYとは?
李 舜志
2025年6月17日発売
1,188円(税込)
新書判/264ページ
ISBN: 978-4-08-721369-0
世界は支配する側とされる側に分かれつつある。その武器はインターネットとAIだ。シリコンバレーはAIによる大失業の恐怖を煽り、ベーシックインカムを救済策と称するが背後に支配拡大の意図が潜む。人は専制的ディストピアを受け入れるしかないのか?
しかし、オードリー・タンやE・グレン・ワイルらが提唱する多元技術PLURALITY(プルラリティ)とそこから導き出されるデジタル民主主義は、市民が協働してコモンを築く未来を選ぶための希望かもしれない。
人間の労働には今も確かな価値がある。あなたは無価値ではない。
テクノロジーによる支配ではなく、健全な懐疑心を保ち、多元性にひらかれた社会への道を示す。