値下げありきで十分な議論をしなかったツケ
最後の砦となりそうなのが人件費だ。
NHKの2024年度における給与の総額は1096億円で、年度末の従業員数は9975人だった。単純計算で平均年収は1098万円である。テレビ業界の年収は比較的高く、民放キー局とそう変わらない水準だ。もし、給与水準を強引に引き下げるようなことになれば、優秀な人材が民放キー局に流れるのは必至だ。
1990年代から2000年にかけて、NHKは文系大学生の就職先として人気を博していた。しかし、今はその影もない。2024年卒マイナビ大学生就職企業人気ランキングの文系総合では36位だった。イオングループに負けている。平均年収が大きく上回っているにもかかわらずだ。
NHKは人員削減を進めているが、新卒の優秀な人材が集まらなければ番組の企画力や取材力、編集力を中長期的に失うことにもなりかねない。そこに番組予算縮小という条件が加わってもおかしくはないのだ。
NHKが1割の値下げを盛り込んだ「NHK経営計画(2021-2023年度)」の意見募集に、60代の男性からこのような意見が寄せられた。
「受信料の値下げについて そもそも値下げありきで決められたこと、その議論、決定の過程に視聴者が全く参加できなかったことは残念です。公共メディアとは何か、放送を基盤にしたメディアのありようは何かの議論の末に値下げの検討があるべきでした」
この意見は至極真っ当だと言える。値下げによって、公共放送としてのコンテンツの質は担保できるのか。スリム化によってNHK離れが進むようでは、その存在意義そのものが失われる。
取材・文/不破聡 写真/shutterstock