高額療養費の自己負担増は悪手

日本では社会保障費の負担増が社会問題化しており、その中でも医療費の適正化をどのように達成するのかが議論されています。

さらにその中で、最近では、高額療養費制度の自己負担の上限の引き上げが案として浮上しており、社会的弱者である重病患者およびそのご家族に経済的負担を押し付ける改悪であるとして、国民から多くの非難の声が上がっています。

私は高額療養費の自己負担の上限の引き上げは悪手であり、やるべきではないと考えます。

そもそも健康保険(公的医療保険)というのは、①予測困難な健康上の問題で、②健康上の問題が起きたときに高額の医療費がかかる、という2つの条件を満たすリスクを減らすことが目的です。

この原則から考えると、高額療養費制度こそが日本の健康保険の根幹であり、それを弱体化させることは、医療費が払えずに治療をあきらめる人や、医療費の支払いのために自己破産して生活保護になってしまう家庭を増やす可能性があります。

医療費の増加を抑制したいのであれば、高額療養費制度の対象となっているような、生き死にの問題に面している重症患者(社会的弱者)に負担を強いるのではなく、まずは先に外来を受診している軽症患者さんに、不要不急の医療を控えてもらうべきだと思います。

医療費を削減することが不可避なのであれば、最初に手を付けるべきは、命の危険にさらされていない軽症患者が使っている医療であり、高額療養費制度のように、最重症の患者を守っている制度は最後まで守るべきであることは明らかです。

厚生労働省(写真/Shutterstock)
厚生労働省(写真/Shutterstock)
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しかしその一方で、医療費を削減する必要があることも事実です。それでは、どのようにそれを達成するべきなのでしょうか?

大原則としては、「医療のムダを減らすことで、国民の健康を犠牲にすることなく、医療費削減を達成すべき」というのが私の考えです。

つまり、患者さんおよび国民の健康を改善、増進しない(もしくはその効果の小さい)医療サービス(※医療行為だけでなく、薬や医療機器も含む広い概念です。医療機関で受けるサービス全般のことだと理解してください)を減らすことで、患者さんおよび国民の健康に悪影響をおよぼすことなく、医療費を削減する(もしくは医療費の伸びを抑制する)べきだと私は考えています。

これは決して机上の空論ではなく、きちんとエビデンスに基づく医療政策を実装すれば、実現可能な話です。他の先進国ではこのような政策は実際に使われています。

医療費を削減するために私が提案する3つの改革は以下のようなものになります。下記を全て合計すると、国民の健康に悪影響を与えることなく、2.3~7.3兆円の医療費(国の総医療費の5~15%相当)を削減することが可能だと考えられます。

1、70歳以上の窓口自己負担割合を一律3割負担とする(1.0~5.1兆円の医療費削減効果)
2、OTC類似薬を、健康保険の対象から外す(3200億円~1兆円の医療費削減効果)
3、無価値医療を健康保険の対象から外す(9500億円~1.2兆円の医療費削減効果)

それでは順番に説明していきましょう。