経営者の7割が「最低賃金引き上げ」で経営が圧迫と回答
昨今のインフレ下における日本の賃上げは急務だ。
東京都が最低賃金を5.4%引き上げる要因の一つに慢性的な物価上昇がある。2024年10月から2025年6月までの食パン、鶏卵など食品を中心とした「頻繁に購入」する生活必需品目の価格は平均で4.2%上昇した。同期間の食料品は6.4%、食料や家賃、光熱費、保健医療サービスなどの基礎的支出項目は5.0%上昇している。
足元の物価上昇率を加味すると、5.4%の賃金引き上げは妥当であるようにも見える。しかし、引き上げに前向きな声ばかりではない。最低賃金は各都道府県の経営者、労働者、学識者の代表の3者が話し合いによって決めており、東京都の答申案の採決では15人のうち賛成は9人だった。
同審議会に使用者側で参加する東京経営者協会総務部長の神尚武委員は、中小企業に大企業以上の賃上げを迫ることに疑問を呈している。
地域別最低賃金を下回った場合、使用者には50万円以下の罰金が科されることになり、最低賃金の引き上げは経営者にとって負担が大きい。物価高騰の影響を受けているのは企業も同じで、原材料費や水道光熱費の高騰が利益を圧迫していることも事実だ。
そこに人件費の負担が重くなれば、持ちこたえる企業体力が失われる懸念もある。
起業家支援を専門とするベンチャーサポート税理士法人は、「法改正に伴うパート・アルバイトの雇用課題」に関する意識調査を実施しており、「最低賃金の引き上げ」や「年収103万円の壁の引き上げ」が経営を圧迫するかとの質問に、7割以上の経営者が「はい」と回答している。
ただし、9割近い経営者は最低賃金の引き上げが必要だとも考えており、賃上げ圧力が高まっている状況に理解を示している。つまり、頭ではわかっていても、急激な賃上げに価格転嫁やコスト削減策が追いつかないというのが実状だろう。
政府は2020年代に最低賃金の「全国平均1500円」という目標を掲げており、今後も中小企業は急いで収益改善を進めなければならない。それに伴い、倒産件数は異常なほどのペースで加速している。
東京商工リサーチによると、2025年7月の倒産件数は961件で前年同月比0.8%の増加、月別で今年最多を更新した。7月としては2022年から4年連続で前年を上回っている。倒産した企業はすべて中小企業で、これは5カ月連続である。そして約4割は飲食業や宿泊業などのサービス業だ。
このように急速なコスト高が中小企業経営者を苦しめているが、一方でサービス業は手厚いコロナ支援を受けてきた経緯があるのも間違いない。倒産の増加は新陳代謝を促していると見ることもできる。いわゆるゾンビ企業の淘汰だ。