お前はどの部族(tribe)の人間だ?
世界各国が喉笛を掻き合う野蛮な「自然状態」に戻っても、その荒れ果てた「マッドマックス2」的ディストピアでも最後に生き残っているのはアメリカだろう。そのような未来をアメリカは選ぼうとしている。
でも、「自国ファースト主義」をすべての国民国家が掲げれば、いずれどこも自分で自分の首を絞めることになる。というのは、「自分さえよければそれでいい」という構文の主語の「自分」はいくらでも小さくできるからである。
現に、アメリカではテキサスでもカリフォルニアでも州独立の運動が活発化している。
今、アメリカで獗猖(しょうけつ)を極めている「アイデンティティー・ポリティクス」というのは、属性の近いものが固まって、他の集団とゼロサムの資源争奪戦を展開するということである。
「お前はどの部族(tribe)の人間だ?」という問いがまず立てられる。違う部族の者とは共生しない。協働もしない。もちろん公共財も共有しない。
この「より同質性の高い部族に縮減してゆく」傾向がアメリカではだいぶ以前から顕著になっている。ジョージア州フルトン郡サンディスプリングでは、富裕者たちだけが自分たちの納めた税金が他の地域の貧民に分配されることを嫌って、「金持ちだけの自治体」をつくった。
金持ちがいなくなったせいで税収の多くを失ったフルトン郡は、図書館などの公共施設が維持できず、街灯まで消された。その結果、フルトン郡では治安が一気に悪化した。
この「成功事例」を見て、アメリカ中の富裕層が住む自治体でこれに続く動きが起きている。