日本サッカーの成長は育成の賜物
FC今治のサッカー自体に目を移しても、形になっていることは多い。
会長に就任する前、FCバルセロナのメソッド部長であったジョアン・ビラと出会い、吉武博文、大木武ら実績のある指導者とともに「16歳までに身につけさせる型をつくる」ことを目的にサッカーの学術書「岡田メソッド」を2018年に完成させた。
それをFC今治の育成組織に落とし込み、U‐15は2022年度、23年度と高円宮杯全日本U‐15サッカー選手権に2年連続で出場を果たし、U‐18からMF馬越晃が今季トップチーム昇格を果たすなど継続して成果を出している。
近隣の少年団、中学、高校に「岡田メソッド」を無償提供。またコーチングスタッフを派遣して地域全体で一緒になって強くなるという試みを展開し、すっかりと定着している。かつメソッド事業については2016年から中国の浙江FCと提携し、成果を認められて契約の更新に至っている。
「育成についてはまだまだ体制として整っていないところがあるので、そこはしっかりしたい。メソッド事業についてはもっと広げていくことができるとも思っている。
特にインドネシア、ベトナムといった東南アジア。今、中国で大きな収益が出ているが、アジアに別の拠点もつくっていきたい。
育成の力が日本を強くしてきた。(2022年の)カタールワールドカップのとき、世界のトップと1対1に当たり前のように勝って突破できる選手が普通になってきて、日本サッカーは大きく変わったよ。
びっくりするくらい層も厚くなった。ひと昔前は、中心選手が一人いなくなったらチームの力がガクッと落ちたものだけど、今じゃそういうこともない。
まだまだFC今治が日本の力になれるレベルじゃないけど、すぐに結果が出ない育成に投資をして力を注ぎ込んでいくのが日本人の良さだと言えるのかもしれない。
ほかの国を見渡すと、すぐにリターンを求める傾向にあると言えるし、10年後のために今投資するっていう考えにはなかなかならない。
A代表だけに労力を掛けたって強くはならないから。
本当に今の日本は欧州であれだけ活躍する選手がいるし、多くの選手が欧州に飛び出している。育成こそが大事なんだってことを日本サッカーの成長が示しているんじゃないかな」
アジアが日本サッカーに学ぼうとするから、岡田メソッドにも注目も集まる。これもまた岡田が「命を懸けて」取り組んできたチャレンジの成果と言える。
次世代にバトンタッチするために、もうひと踏ん張りしなければならない。「まっとうな人生」に戻るには、もうちょっと時間が掛かりそうだ。
ホラ吹きではなく、夢を語ってきた責任を果たすため。岡田武史がやるべきことは、まだまだ残っている。
(終わり)
取材・文/二宮寿朗 撮影/近藤 篤
※「よみタイ」2024年12月30日配信記事