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新しい競輪「PIST6」の挑戦

2020年初頭から始まった新型コロナウイルスの感染拡大で、苦境に追い込まれた産業は多いが、その反面、いわゆる「巣ごもり需要」の恩恵に与った産業があったのも事実だ。

公営競技は恩恵に与った産業といえる。「巣ごもり需要」が売上増大につながったという関係者は多い。競技が無観客開催を余儀なくされ、選手の感染で競技実施ができなくなったことも多々ある。場外発売所も休業を余儀なくされたが、ネット投票の売上増大で主催・施行者の収益があったため、場外発売所のフォローもある程度できた。

もし、十数年前にこの感染症があったなら、多くの公営競技場が廃止に追い込まれたに違いない。

10年代半ば以降の売上だけをみるとバブル期に匹敵もしくは超える活況を呈する公営競技界だが、この活況がいつまでも続くとは思えない。

これまで見てきたように、インターネットによって投票券の市場は空間的に拡大し、モーニング・デイ・ナイター・ミッドナイトと競技時間帯もほぼ極限まで拡張した。空間的・時間的なフロンティアはもうない。

そうしたなか、21年10月、千葉競輪場で「PIST6」という新しい競輪がスタートした。仕掛け人は株式会社JPF(旧社名は日本写真判定)社長の渡辺俊太郎だ。

16年6月、渡辺は売上不振と施設の老朽化で競輪事業からの撤退を決めた千葉市に、これまでにない「250競輪」の開催を提案する。JPFはミクシィと提携し、千葉JPFドーム(TIPSTAR DOME CHIBA)を新たに建設し、21年10月に「PIST6」の愛称で250競輪をスタートさせた。

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250競輪とは自転車のトラック競技の国際規格である周長250メートルの木製バンクで実施される六車立ての競技で、オリンピックの種目にもなるケイリンと同じスピード感を楽しめる。

JKAは国際競技に対応できる選手を養成するため、伊豆市の競輪選手養成所に周長250メートルの木製バンクを有している。東京オリンピックのトラック種目はこの競技場で実施された。近年養成所に入った選手候補生は全員がこのバンクでの訓練もおこなっている。

競技場の運営を包括受託したJPFは千葉市に収益(一般会計繰出)を保証しており、施行者の千葉市はこの競輪事業で損失を被ることはない。

競技実施の実務を担うのはJKAではなく、渡辺らを中心に18年に設立された一般財団法人日本サイクルスポーツ振興会だ。競輪場を華やかなスポーツエンターテインメントの場にし、サイクルスポーツの振興、地域振興につなげるというのが渡辺らのめざすところだろう。

PIST6では「紙の車券」は販売せず、TIPSTAR(ティップスター)というネット投票のみだ。初開催の21年10月は6日間の開催で10億円を売り上げた。一日にすると平均1億6600万円だ。

これは、同月に開催された立川競輪の売上とほぼ同じくらいだ。このときの立川競輪はランキング上位のS級選手が出走しないA級選手だけの昼間開催3日間とモーニング開催3日間の計6日間だった。売上額だけで見るとPIST6は売れなかったと言わざるを得ない。
 
PIST6のその後の月別の売上をみると、一か月で10億円を超えたのは最初の一か月だけで、それ以降は22年10月(10日間開催)の2億円が最高だ。

PIST6の今後がどうなるかはわからない。だが、250競輪の実施には屋内の木製バンクの新設が必要なので、今後手を挙げる施行者はほとんどいないだろう。

何かのきっかけで社会的に注目され、一気に売上が増えることがあれば話は別だが、投票券発売で成立する公営競技という枠組のなかで、PIST6は事業としては厳しい状況にあると言わざるをえない。

今後はわからないが、これからの競輪、ひいてはこれからの公営競技のあり方についてPIST6が投じた一石は重く受け止めるべきだろう。