M-1は芸人と一般のお客さんのバランスが絶妙
この点で一番わかりやすい例は、関西で放映されている「オールザッツ漫才」です。
今は違うんですけど、昔のオールザッツ漫才では、客席の奥のほうにズラリと漫才師が座っていました。この環境では、ステージに立っているほうもプロの芸人に面白いと思われたいから、ちょっと玄人向けのネタをしがちです。
すると奥に座っている漫才師が笑い、つられて一般の客席でも笑いが起こります。要は、プロの漫才師の存在によって会場のお笑い感度がビンビンに上がっている状態で漫才をする、という構図になっていた。もし漫才師がいなくて一般のお客さんだけやったら、同じネタでも、きっとほとんどスベっていたと思います。
そういう意味では、第1回キングオブコントも同じでした。第1回のキングオブコントでは、客席に準決勝で敗退した芸人100人がズラリと並び、1人持ち点5点の500点満点で審査するという方式でした(最終決戦は決勝に進出した6組による審査)。
そして初代チャンピオンは、バッファロー吾郎。でもバッファロー吾郎は「笑域(しょういき)」の高い芸人の代表格みたいな存在です。一般のお客さんにウケ切らないネタも多い。
それでもバッファロー吾郎が優勝できたのは、客席にいる芸人のアンテナが確実に笑いをキャッチし、それが客席に伝搬した結果やと思います。
ネタ番組でも賞レースでも、芸人が見ているのはいいんですが、一般のお客さんとのバランスは加減する必要があると思います。
あまりにも芸人が多いと、どんどん一般のアンテナではキャッチできない高周波数の芸ばかりがウケてしまい、世間の感覚との乖離(かいり)が生じてしまう。そんなふうにプロにしか理解できない番組・大会にするのは得策ではないでしょう。
その点、M−1は、ちょうどいい塩梅(あんばい)になっていると思います。年度によって多少違いはありますが、5〜9人の審査員がいる。客席には一般のお客さんが入っていて、そこに前回の(時には前々回も)チャンピオンが混ざっている、というバランスです。
これにより芸人審査員が一般のお客さんの反応も見られる状態なので、プロの感覚に一般的な感覚も掛け合わせた点数づけができるんです。プロから見た真新しさや技術の点で図抜けていて、かつ一般ウケもいいコンビが勝てる環境になっていると思います。