運命のままに生きてはならない
学海長官は老師の言葉に感銘を受けて、帰ってから奥さんにその話をします。奥さんもたいへん立派な方だったのでしょう。
「それはよいことをお聞きになりましたね。できれば私も一緒になって、これからはなるべくよいことを思い、よいことをしていくようにします。二人して力を合わせていきましょう」
奥さんがそう言ったあとで、この本は局面ががらりと変わります。
「なあ息子よ、お父さんはあの白髪の老人が言った通りの人生を歩いてきた。しかしご老師から、運命のままに生きてはならない、考え方によって人生は変わるのだということを教わり、お母さんと一緒によいことを思い、よいことを実行するようになった。すると、生まれてこないと言われていたおまえが生まれた。それだけではない。53歳で寿命が尽きると言われていた私が、70歳を過ぎた今も元気にしている。
人生というのはそういうものなのだよ。人生には運命があり、その運命を変える因果の法則というものがある。善きことを思えばよい結果が生まれ、悪いことを思えば悪い結果が生まれるという因果の法則があるのだよ」
そう息子に語っているのが『陰騭録』という本です。
若い頃にその内容を理解した私は、「ああ、やっぱりそうなのか」と思いました。人生の方程式というものをつくり、考え方が大事なのだと思ってきたけれども、やはり人生の中で一番大事なのは「考え方」「思い」であったのかと、確認することができたわけです。
「どう思うのか」ということが、人生の中で一番大事なのです。
以来、私はそのことをいつも考えながら生きてきたつもりです。
(2006年12月22日 善通寺市立東中学校での講演より)
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