私の投資体験
株式や投資信託への投資は、始めることよりも、やめることのほうがはるかに難しい。ここで私自身の体験を紹介しよう。
私は、バブル崩壊を予見して、数年前から少しずつ投資用の株式を処分してきた。そして、2023年の段階で処分を終えた。ただ、どうしても株主優待が必要な株は残している。
たとえば、タカラトミーの株式を所有していると、株主優待で特別仕様のトミカとリカちゃんをもらえる。これらはB宝館という私設博物館の重要な展示物なので、株式を売ることはできない。そうである以上、タカラトミーの株式は優待が続く限り売ることはない。つまり、投資対象ではないのだ。
一方、株式の処分を終えたあとでも、ドル建ての投資信託は全部残していた。当面、円安が進行して、さらなる高騰が予想されたからだ。
しかし、2023年末に受けた余命4カ月というがん宣告で、私は重い腰を上げざるをえなくなった。前著『がん闘病日記』で詳しく書いたのだが、株式や投資信託を抱えたまま死ぬと、死亡日の相場で計算した評価額の相続税がかかるだけでなく、売却益にも課税という二重課税が行なわれる。
しかも、本人が売却するのは簡単だが、相続人はすぐに売却することが難しい。結局、相続人に迷惑をかけてしまうことになるのだ。
そのため、2024年に入って、私は外貨建て投資信託もすべて処分した。がん宣告というショックがなければ、おそらくできなかっただろう。
幸か不幸か、この十数年、世界の株価は右肩上がりで上昇してきたので、ほぼすべての人がいますぐ投資から手を引けば、利益を手にしながらの撤退が可能になる。
さきほど、お金が増えることはないと言ったではないかと思われるかもしれないが、その利益は最後まで株式や投資信託を抱え続けた人たちが支払う羽目になる。それは仕方がない。いくらバブル崩壊のリスクを伝えても聞く耳を持たなかったツケだ。
じつは、数年前から投資を手仕舞いしてきたことと、ここのところの株価バブルによって、投資からの撤退で私の手元には大きな資金が残った。その資金はいま、毎月100万円を超えるがん治療費用の原資となっている。バブルのおかげで延命が可能になり、この本も書けているということだ。
そう書くと、私の投資は成功裏に終わったと思われるかもしれないが、私はかつて投資でとてつもなく大きな失敗も経験している。