大手企業を「自己都合」で退職する理由
福島県の代男性Bさんの借金総額は400万円を超えていた。複数の消費者金融から限度額いっぱいに借り続けた結果、返済に行き詰まり、自分の力だけで解決する道筋は、完全に見失っていた。残された手段は、「任意整理」「民事再生(個人再生)」、もしくは「自己破産」しかない。債務整理の相談のため、Bさんは地元・郡山市の「あさか司法事務所」を訪れた。
オフィスで応対した安藤宣行代表が、借金の理由を尋ねると、「病気の家族の治療費のためだった……」と憔悴した様子で話した。
「大変でしたね。なんとか整理をしていきましょう」
元気づけるようにそう言いながら、Bさんの職歴書に目を落とした安藤さんは違和感を覚えた。
「これは変だ……」
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Bさんは30代のころ、県内で名の知られた大手企業を「自己都合」で退職していた。すぐに、別の地元中小企業に再雇用されているが、かつての勤務先に比べると、待遇や収入の面で大きく見劣りがする。会社を辞める理由は人それぞれだろうが、家族の医療費で多額の借金を抱えている事情を考えると、この「自己都合」は腑に落ちない。
もちろん、理由はどうであっても、司法書士としては、全力を尽くさなければならない。安藤さんは、すぐにBさんの債務整理に着手した。
借金の内容を詳細に検討した結果、いくつかの消費者金融には「利息の過払い金」が発生していることがわかった。手続きで返還を求めることができる。
そのことを伝えると、それまで落ち込んだ様子だったBさんの表情がいきなり変わった。「金は戻ってくるのか?」「それはいつになるのか?」と執拗に尋ねるようになった。いくらかの過払い金が返還されたとしても、借金がチャラになるわけではない。すぐに別の債務返済に回す必要がある。
にもかかわらず、それ以降のBさんは、安藤さんの顔を見るたびに「いつ、現金は手に入るのか」ばかりを気にするようになった。家族の治療費でやむを得ず借金した人が、目先の現金に固執する姿は明らかに異様だった。
当時を回想しながら、安藤さんはこう説明する。
「収入や待遇面で恵まれている勤務先をいきなり辞めてしまう理由は、自分の退職金が目当てのケースが少なくありません。ギャンブルなどで借金が膨らんでしまうと、勤務先を辞めて、その退職金で返済するのです」