この秋におすすめのコースは?

――では、新刊『日帰りで登れる 温泉百名山』の中から、この秋におすすめのコースを教えてください。

先に挙げた中腹までロープウェイやゴンドラリフト、登山リフトを利用できる山になりますかね。北海道はもう降雪があり、初冬に入っているので、11月以降の登山はあまりおすすめできませんね。

本州の山も10月半ば以降はいつ雪が降ってもおかしくないですから、天候チェックが一番のポイントになります。好天の日を最優先の条件としてください(※以下、山名のあとのカッコ内は組み合わせた温泉になります)。

おすすめのコースとしては東北では八甲田山の赤倉岳(酸ヶ湯温泉)、森吉山(打当温泉)、蔵王山(蔵王温泉)、安達太良山(奥岳温泉)、登山口から比較的容易に登れる一切経山(高湯温泉)あたり。

11月半ば頃まで紅葉が楽しめる関東では、至仏山(寄居山温泉)、榛名山(榛名湖温泉)、浅間隠山(相間川温泉)、大岳山(つるつる温泉)、筑波山(筑波山温泉)、明神ヶ岳(宮城野温泉)。

甲信越では大菩薩嶺(大菩薩の湯)、茅ヶ岳(クララの湯)、千頭星山(韮崎旭温泉)。それぞれ富士山と周囲の山々を眺望するのに絶好でしょう。ほかでは東篭の塔山(高峰温泉)、木曽駒ヶ岳(早太郎温泉)、八方尾根(白馬八方温泉)、大渚山(小谷温泉)、五頭山(出湯温泉)あたり。

北陸・近畿・東海では、立山は冬支度が必須になります。その他の山は初冬まで安心して楽しめるコースばかりです。鳳来寺山(湯谷温泉)、御在所岳(湯の山温泉)、特にススキの名所の曽爾高原が登山口の倶留尊山(曽爾高原温泉)、霧氷が美しい高見山(たかすみ温泉)を推奨しておきます。

中国・四国・九州の山々も秋の登山は絶好の山ばかりです。中国地方では蒜山(蒜山ラドン温泉)、船通山(斐乃上温泉)、三瓶山(三瓶温泉)。四国は石鎚山(石鎚山温泉)。九州は九重山の三俣山(星生温泉)と大船山(法華院温泉)、霧島連峰の白鳥山(白鳥温泉)と韓国岳(霧島温泉郷)が特におすすめの山と言えるでしょう。

倶留尊山の登山口はススキが美しい曽爾高原
倶留尊山の登山口はススキが美しい曽爾高原
倶留尊山の近くにある曽爾高原温泉・お亀の湯
倶留尊山の近くにある曽爾高原温泉・お亀の湯
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――最後に美しい日本の山や温泉について、いま思うことを教えてください。

山は素晴らしいです。麓から、あの山頂に立てばどんな景色が広がっているのだろうかと想像するとワクワクします。また、たとえ山頂に立てなくても、中腹の新緑のブナ林や苔むした針葉樹の森を逍遥するだけでも、身体中に生気が吹き込まれるのを感じます。

そして、下山後のご褒美は温泉です。麓の温泉に浸かりながら、その日の登山の余韻に身を委ねると、「生きていてよかった!」と至福のひとときを実感できると思います。

ただし、その温泉も後継者不足などで廃業に追い込まれている温泉宿も目立つようになり、また地球温暖化の影響があるのか、湯量減少や泉温低下などの深刻な現象も起きています。この日本の貴重な資源である温泉を、国を挙げて守っていく施策が必要と思います。

山や登山道は、いま荒廃しているところが目立ちます。私が『温泉百名山』の選定登山をしていた時期、南東北や北関東の山河は福島の原発事故による放射能汚染の影響を受け、山菜や茸、鹿や猪などが食せない状況下にありました。なんてことをしてくれたんだ、と悲憤の念を禁じ得ませんでした。

山の荒廃には林業の衰退で森林の手入れがなされていない現状があり、また荒れた登山道の整備は山小屋のスタッフや地元山岳会有志のボランティアなどの献身的努力によって支えられているのが実情です。それはあまりにも自然の保全・保護に対する予算が貧弱だからです。

一方で、受益者負担の観点からも、登山者は入山料を応分に負担して登山道の整備等への支援を検討する時期にあるのではないでしょうか。

この日本の美しい山河と貴重な温泉資源を守ることは、まさに「国土を守る」こと。国の「国土を守る」方針は防衛費の膨張増額にあるようですが、そのほんの一部でも日本の唯一無二の美しい自然環境を守る、すなわち「国土守る」ことに回すべきではないか。それは、自らの足でこの美しい日本の山河を歩いてみて、あらためて気づいた私の実感です。

取材・文/集英社インターナショナル

日帰りで登れる 温泉百名山
飯出敏夫
日帰りで登れる 温泉百名山
2024年10月25日
2,200円(税込)
四六判224ページ
ISBN: 978-4-7976-7453-8

温泉達人、麓に温泉施設のある「ふるさとの名山」を100座選定。

名湯のある名山を100座選定した『温泉百名山』。刊行後、著者のもとには「登山初級者向けの続編を出してほしい」との要望が数多く寄せられた。確かに『温泉百名山』は山奥の名湯を足掛かりにしたため、山は高レベル、長時間を要するコースが中心だ。そこで、『日帰りで登れる 温泉百名山』では、初級者や年配者でも比較的容易に登れる山、いわばふるさとの名山(低山)と、下山後に入れる近年開設された日帰り温泉施設も加えてピックアップ。リフレッシュと癒やしが主目的の、登山口から日帰りできる『温泉百名山』の続編。

登山家・野口健氏推薦!
登山と温泉を一緒に楽しめるのは日本ならでは。みんなで楽しみましょう。

温泉ソムリエ協会推薦!

【構成・内容】
都道府県別に分類し、基本的に北から南の順に記述。1コース見開き構成。山の概要と登山レポート、温泉の紹介に、美しい山と温泉の写真を添える。著者の主観的な体験レポートにポイントを置き、一般的なガイドブックとは一線を画す内容。さらに参考データとして、登山口からの往復コースタイム(休憩含まず)、基点となる温泉までのアクセス、下山口から温泉までのアクセス(公共交通&車)、コースの難易度(5時間未満★、5~7時間未満★★、7時間以上★★★)なども記載する。

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