「温泉百名山」の誕生

――「温泉百名山」とはどのようなものでしょうか?

飯出敏夫(以下、飯出) 簡単に言うと、「登山口近くや山中にいい温泉がある名山」ということです。いい温泉とは、『日本百名山』の著者・深田久弥氏が名山の基準とした「品格」「歴史」「個性」がそのまま名湯といわれる温泉にも通じると考えました。名湯のない日本百名山がけっこうあり、その代わりに名湯はあるが日本百名山に選定されなかった名山を加えて、「温泉百名山」の選定登山を試みたのです。

2015年以降に登った日本百名山で名湯のある名山はそのまま残し、それ以前に登った日本百名山は登り直すことにしました。なぜかというと、1つにはこの年齢で登った山の印象を実感する必要を感じたこと、そしてもう1つがデジタルの画像がないことでした。

それは、達成の暁には書籍にしたいという希望を持っていたからです。結果、日本百名山完登以降に登った山は70座以上にもなり、2018年7月からとりかかり、完結は2021年9月の北岳でしたが、さらに10月には日本百名山登頂時には噴火事故で立入禁止になっていた御嶽山剣ヶ峰にも登りました。

――選定に至るきっかけを教えてください。

飯出 2016年に北陸の霊峰白山に登ったときに深い感銘を受け、登り残した日本百名山はあといくつあるだろうと数えてみたのがきっかけとなりました。残り41座で、そのとき69歳。では、翌年の古稀の記念に完登しようと決意しました。

それで、翌年9月の剱岳で日本百名山を完登したのですが、次に何を目標にするかを考えたとき、日本百名山の中には温泉のない、あるいは温泉のことが記述されていない山が多いということに気づいたわけです。

私はほぼ40年(温泉に特化して30年余)、温泉・温泉宿の取材と執筆活動をしてきましたが、学生時代は登山に没頭した青春を送っていました。それで、温泉と山を組み合わせた「温泉百名山」を選定登山することは、いわば私に与えられた使命だという思いにとらわれてしまったんです。まぁ、そこに行きついたことは「必然」という思いもありました。

温泉達人が語る「温泉百名山」とこの秋におすすめの山&温泉のコース_1
「日本百名山」の百座目登頂となった剱岳で。写真・飯出敏夫(『温泉百名山』)
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