巨大メディアに巣食う「組織の論理」の息苦しさ

だが、テレビ東京は「日経との契約満了」を理由に、2023年3月にこのチャンネルの更新を突然終了してしまった。5月31日にはアーカイブもすべて削除された。同年2月末には高橋もテレビ東京を退社している。

テレビ東京と日本経済新聞社がこの人気プロジェクトを打ち切った理由は明らかにされていない。これに不満を感じた高橋はテレビ東京を辞めてしまった。

その後、独立した高橋は新たにビジネス系YouTubeチャンネル『ReHacQ-リハック-』を立ち上げた。現在ではこちらもチャンネル登録者数104万人を超える人気チャンネルに成長した。

この2つのケースを見ると、テレビ局という巨大メディアの「組織の論理」の息苦しさに耐えられなくなった気鋭のクリエイターたちが、沈む船から逃げるネズミのように自由を求めて立ち去っていく姿がうかがえる。

テレビ局を離れたテレビマンの中には、引き続き地上波の番組作りに携わる人もいるが、ウェブメディアなどの新しい媒体でコンテンツ制作を行っている人も多い。

実際、YouTubeにもテレビ制作者がどんどん参入している。芸能人のYouTubeチャンネルでは、テレビ制作の経験があるディレクターや作家が制作に携わっているケースが多いし、それ以外でも元テレビマンがYouTubeで成功を収めているケースはたくさんある。

エンタメ系の映像コンテンツの世界でテレビ局がいまだに大きな影響力を持っていることに変わりはない。しかし、そこで映像制作のノウハウを身につけたテレビマンが、ほかの分野に進出する事例は相次いでいる。今後はそこから新しいコンテンツが生まれ、文化が育っていくのだろう。

人気番組や話題作を多数生み出している優秀なテレビマンが、続々とテレビ業界に見切りをつけているというのは、テレビの衰退を改めて浮き彫りにする事実であると言える。

「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」相次ぐ大物テレビマンの独立だけではないテレビ局を巣食う「組織の論理」の息苦しさ_3
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ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。専攻は哲学。テレビ番組制作会社勤務を経て、フリーライターに。在野のお笑い評論家として、テレビやお笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。著書に、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)他。

松本人志とお笑いとテレビ
ラリー遠田
松本人志とお笑いとテレビ
2024/10/8
924円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4121508201
松本人志は、なぜ30年近くにわたってトップに立ち続けていたのか。そして「ポスト松本」時代のお笑いとテレビは、どう変わるのか。
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