レプティリアンは「資本主義の悪」を象徴する存在

――太田は、レプティリアン陰謀論に資本主義社会への抵抗の可能性を見たわけですね。

おそらく、太田にとっての「レプティリアン」とは「資本主義」を言い換えたものだったのだと思います。

たしかに、資本主義社会はさまざまな格差や不平等や環境問題を生み出し、経済のために非人道的な行為がまかり通ってしまうこともある。批判的に見ると、資本主義こそが諸悪の根源だと言えなくはありません。しかし、厄介なのは「資本主義には実体がない」ということです。

例えば、資本主義社会を打倒しようとグローバル企業の本社を占拠したとしても、資本主義のシステムは止まらないでしょう。グローバル資本主義には実体がないので、特定の国や企業、人物を攻撃しても打倒できないわけです。

では、どうやって資本主義に抵抗すればよいのか。太田の出した答えがレプティリアン陰謀論でした。

つまり、太田にとってレプティリアンとは資本主義によって生み出される悪を実体化し、人々に抵抗のエネルギーを向けさせ続けるためのメタファーだったわけです。

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――とはいえ、レプティリアンを持ち出すのは極端すぎるようにも思います。

もちろんレプティリアンなど持ち出さずに、資本主義の内部から格差や不平等を少しでも解消していくという道もあるでしょう。

しかし、太田は資本主義の問題を根本的に取り除く方法を一貫して問い続けたわけです。

私は、太田の思想には、決して馬鹿にはできない指摘が含まれていると思っています。

先ほども述べたように、現在の社会は世界中が資本主義のシステムで覆い尽くされてしまい、その恩恵を受ける私たちすべてが、そのシステムの孕む悪の加担者にならざるを得ません。

そんな世界では、レプティリアンのような絶対悪の観念に頼らなければ、ラディカルに社会を批判することは難しいわけです。実際、社会や政治を批判する人たちが、レプティリアンでないにせよ、何らかの組織や人物を絶対悪として無自覚に陰謀論的になっているのを目にします。

この点では太田のほうが良くも悪くも意識的であり、こここそが太田の注目すべきところです。

そもそも現代の社会を鋭く批判するには、既存の常識から見れば荒唐無稽と思われる思想や観念に依拠せざるを得ないのではないでしょうか。

それほどまで資本主義が進展し、有力な対抗理論が見失われてしまった世界に、私たちは生きているということを自覚する必要はあると思います。

プロフィール
栗田英彦(くりた・ひでひこ)
近代宗教史・思想史家。1978年生まれ。東北大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。名古屋弁証法研究会主宰。佛教大学、愛知学院大学等、非常勤講師。専門領域は近代霊性運動史、近代仏教史、日本思想史。修養・民間精神療法(霊術)・催眠術から、昭和期の右翼思想や1960年代の新左翼・全共闘運動まで幅広く研究している。著書に『近現代日本の民間精神療法』(共編著、国書刊行会)、『「日本心霊学会」研究』(編著、人文書院)、『コンスピリチュアリティ入門』(共著、創元社)など。

取材・文/島袋龍太 写真/Shutterstock