世界に意味があるとしたら
私たちは、自分をとりまく外界を見つめ、そこから自分の物語を作り、その物語を再び外界に投射します。プロジェクションというこころの働きによって、外界と自分の物語は重ね合わされ、こころと現実はひとつの意味のある世界となります。
外界はただそこに在るだけでは意味を生みません。それをとらえた人のプロジェクションが重ね合わされることで意味を持つのです。世界に意味があるとしたら、そこにプロジェクションがなされているからです。
私たちは、現実世界を生きています。けれど、現実世界だけで生きていくことは、時になかなかしんどいものです。
なんだか生きる力が減っていくばかりと感じるような時、プロジェクションが生みだすイマジナリーな世界があると、目の前の現実からほんの少し離れることができます。
そして、離れることでひとときでも苦しみを忘れ、また生きる力がたまってくることもあります。
先の随筆で小川さんは、アンネ・フランクによる『アンネの日記』を読んで衝撃を受け、それからアンネに語るように、ノートにさまざまな自分の悩みを書き綴ったといいます。
作家になる原点となったそのような体験を通じて、小川さんはこう書いています。
「彼女との間に交わした空想の友情が、どれほど私の救いになってくれたか知れません。当時、私にとっての親友は、自分なりにこしらえた物語の世界に住む、決して会うことのできない少女だったのです」。
人間は生きてゆくために、どうにかして現実と折り合いをつけようとします。自分を現実につなぎとめるために、つかのま現実から離れるのです。そんな時に、プロジェクションが生みだす自分だけの物語は、大切な意味を持つのでしょう。