『MIU404』における「(言葉上の)“善意の空虚さ”」
続いて、2つ目の「裏テーマ」はなにか。それは、「(言葉上の)善意の空虚さを暴く」ことである。この「裏テーマ」が描かれていた『MIU404』のシーンを以下に引用したい。伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)の刑事コンビが護衛する羽野(黒川智花)を追うため、成川(鈴鹿央士)が特派員REC(渡邉圭祐)に、その行方を捜す方法を相談するシーンである。
特派員REC:人の善意に頼る
成川:善意?
特派員REC:「娘と孫を探しています」(筆者注:SNS上に)送信
『MIU404』#9「或る一人の死」より
余談だが、『アンナチュラル』における毛利と向島同様、「裏テーマ」を込めたとされるセリフを主人公に言わせていない点が、それを「自然に出せる」野木の巧みさだろう。
引用のシーンのあと、本当に「娘と孫を探している」投稿であると信じた他者の「善意」ある返信によって、成川は羽野の居場所を突き止めてしまう。そして、「羽野が詐欺師である」と聞かされその行方を追っていた成川だったが、彼もまたその「善意」を逆手に取られていたことが後の展開で示されることとなる。
この「(言葉上の)善意」を逆手に取る構造は、『ラストマイル』では舟渡をはじめ、登場人物たちが物流を止めまいと奔走することの動機付けに引き継がれている。この動機付けにどのように抗うかが、本作の最も大きな「バトル」だろう。
さて、ここまで「(言葉上の)善意」に続き、その「空虚さを暴く」ことについても以下に書きたい。
『MIU404』作品内においては「空虚さ」についての演出がリフレインされる。例えば、「404 NOT FOUND」=「存在しないページというエラーメッセージ」(第10話におけるセリフより)や、伊吹と志摩がその製造者を追っていた、中心に穴が空くよう形どられた薬物「ドーナッツEP」が象徴だ。
そして、極めつけは物語の最大の敵となる久住(菅田将暉)のキャラクター性であろう。ドーナッツEPを売り、成川の「善意」を逆手に取っていた人物。彼は、名前や出自を相手次第で偽り、絶対的な人物像が定まらないまさに「空虚」な存在であることが示される。それを受けて、伊吹と志摩は、
伊吹:むじぃよ。なに語?メケメケフェレットって?
志摩:メフィストフェレス!って、もういいよ!
伊吹:メケメケフェレット、久住。
『MIU404』#10「Not found」より
と、久住を分析しようとするが、奥多摩で長い時間を過ごした伊吹の「言葉よりも行動」という性格の前に、深く考えることをやめる。伊吹と志摩は上記のように、「空虚さ」という相手が仕掛ける戦略に対し、乗らな/乗れなかったがゆえに結果的に久住を逮捕することができたのではないか。