『アンナチュラル』で描かれた「情報社会における“強者”への対抗」
野木が本作で描きたかった「裏テーマ」とはなにであったのか。まず、1つ目としてあげられるのは「情報社会における“強者”への対抗」である。
例えば、『アンナチュラル』においては、倫理的にグレーな方法で世論をあおり、情報の拡散を狙う週刊誌記者が最大の敵となっている。
以下に野木の「裏テーマ」がわかりやすく示されたシーンを引用する。『アンナチュラル』の最終話にて、中堂(井浦新)の恋人を殺害した犯人・高瀬(尾上寛之)が法廷にてその犯行を自白した直後、高瀬の凶行を犯行現場で取材した週刊誌記者の宍戸(北村有起哉)を刑事である毛利(大倉孝二)とその部下の向島(吉田ウーロン太)が逮捕するシーンだ。
(略)
宍戸:私は撮影をしていただけです。ライオンに食われるシマウマを撮影していたカメラマン、あれと同じ。
毛利:おい向島、ここはサバンナだったか?
向島:東京ですよ?
毛利:だから、そういうことを言ってるんじゃないんだよ。ここは野生動物の世界であったかどうかって聞いてんだよ。
向島:人間の世界。
毛利:人間界には刑法ってもんがあんだ。
『アンナチュラル』#10「旅の終わり」より
このシーンでは「言った/やったもん勝ち」な世の中で、それでも非倫理的な「勝ち方」の一線は超えない(でいてほしい)「人間らしさ」を信じる様子が見て取れる。そこにドラマ性を見出したのが野木の作家としての才能だろう。その才能は、情報化社会となって久しい現代だからこそ広く受け入れられているといえる。
『アンナチュラル』に見られたこの「情報社会における“強者”への対抗」は『ラストマイル』でも引き継がれるのではないかと予想していた。某外資系ショッピングサイトが明らかに下敷きにされている設定や、新自由主義的な思考を体現した五十嵐(ディーン・フジオカ)の登場がその所以だ。
加えて、『ラストマイル』の主人公である舟渡(満島ひかり)は、これまでの作品とは異なり「情報社会における“強者”=プラットフォーマー」側にいる。ゆえに、『アンナチュラル』では描かれなかった、また別の「人間らしさ」を掬い取る挑戦であるといえるはずだ。