すべての始まりは、ぶった斬りコラム

――爪さんが『クラスメイトの女子、全員好きでした』の文庫解説を鈴木さんにお願いしたいきさつは?

 僕からのリクエストですね。

鈴木 以前cakesというサイトで「ニッポンのおじさん」っていうコラムを連載していたときに、爪さんのデビュー作『死にたい夜にかぎって』を取り挙げさせてもらったんです。

「ニッポンのおじさん」って毎回、何らかの人物や事件なりをネタにして、悪口を好き放題書きまくる連載だったんですけど、それを爪さんが読んでくれていて。

 あの連載、僕の友達で作家の燃え殻さんのこともぶった斬っていたじゃないですか。燃え殻さん、すごい気にしていましたよ。いまだに気にしている(笑)。
 

鈴木 ごめんなさい(笑)。私は絡んだら喜んでくれるおじさんが好きなんですけど、7割ぐらいには嫌われるので、爪さんが反応してくれたのは嬉しかったです。もちろん、燃え殻さんも。

私、インテリ系おじさんにはそこそこウケがいいんですけど、同世代とかちょっと上か下くらいの文化系男子とはあんまり相性がよくなくて。だから、爪さんは私のことはタイプじゃないだろうなって思っていたんです(笑)。

 いやいやいや(笑)。文化系男子じゃないですよね、僕は。小説をまったく読まないんで。

鈴木 そうなんですか? かなり高度な文体や比喩を使われているように見えますけど、自然に湧き出てくるものなんですか?

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 どうなんですかね。ただ、僕、小学生の頃にガキ大将にいじめられていて「俺の夏休みの日記、全部お前が書いてこい」って言われて。ゴーストライターのように日記を代筆して、お金をもらっていたんですよ。

そいつの家族構成とか、きょうだいの性格とか、何日に花火大会に行ったとか、ぜんぶ聞き取りをして。それが、学校の先生にもバレずにうまくいって。調子に乗って、小学6年生からは自分から営業をかけて、最終的に学校全部で20人くらいの日記を書いていましたね。

鈴木 すごい! それ一冊いくらぐらいで売ったんですか?

 一冊千円くらいです。
 

鈴木 大学生とかでレポートの代筆は聞きますけど、小学生ですでに代筆業を……。そのバランス感覚は多分天性のものなんだと思います。

だって、爪さんの本を読んでいると、小学生当時からガキ大将に嫌われないバランスみたいなものを、自然に身に付けていらっしゃいますよね。人の嫉妬心をあおってもろくなことはないって、普通その年齢で分からないですよ。子供の頃なんて、俺はすごいんだっていう自己アピールとか承認欲求が強いから、なかなかそこまで配慮できないと思う。
 

 そうですね。誰についていけばいいかを小学生の時から敏感に察していたから、ひどいいじめにはあっていなかったです。クラスで一番走るのが速くても、地味キャラの自分が勝ったらいけないと思って手を抜いていましたし。

『クラスメイト~』にも書いた通り、中学生のころにバク転ができるようになっても、それを周囲には隠していました。ニキビ面のやつがバク転で飛べるのを披露したところで、それは多分「妖怪ニキビ車」とか言われるきっかけを作るだけになるので(笑)。