昔話に1人暮らしのお爺さんが多いわけ
特筆すべきは既婚率には男女差があることで、16世紀から19世紀の下人や農民、都市部の人々の全般で、男の既婚率は女より低いものでした。独身女より独身男のほうが多かったのです。こうした実態は昔話にも反映されています。
柳田國男の『日本の昔話』(角川文庫版)106話のうち人間を主体とした89話中、老人が主人公であるのは28話、そのうち17話の老人が働いていて(6割強)、老夫婦の話が13話、1人暮らしが5話(爺4話、婆1話)。その他、1人暮らしと明記されないものの、子や配偶者の登場しない老人の話が6話(爺5話、婆1話)、ひとりみの老人が子どもと暮らす話は4話です。
3世代同居の話は一つもなく、1人暮らしの場合は爺が婆の4倍となっている。昔話が作られ語られた時代には、とくに男の独身率が高かったという実態を反映しているのでしょう。
なぜ男の独身率が高いのか。そのあたりの理由はよく分かりませんが、裕福な階層では一夫多妻が行われていたため、1人の男に女が集中して、あぶれる男が出てくるといったことがあったのでしょうか。
子だくさんを嫌った江戸後期の庶民
時代を遡れば、平安末期に編まれた『今昔物語集』の伝える有名な「わらしべ長者」も、男の結婚難や生活苦を背景に生まれた物語です。
皆婚社会が実現する16・17世紀になるまで、結婚は特権階級にゆるされるものであった、だから御伽草子には結婚への憧れが描かれていた、と書きましたが、実は、近世後期から幕末にかけては人口が停滞し、「1世帯当たりの平均子ども数が1・2人前後という数値は近世後期の村落よりは少し多い」という少子化ぶりでした。
しかも当時、「子どもの数を1人から2人に限定したいという文言に出会うことは珍しくなく、一般には子沢山が嫌われていた」(太田素子『子宝と子返し 近世農村の家族生活と子育て』)といいます。
結婚が庶民にもできるものになってくると、特権階級の人々が綴った文学と同じような、「少子」への志向が現れてくるのです。
理由については太田氏が分析していますが、時代ごと様々な理由や事情によって、日本人が少子を志向する一面があるのは興味深いものがあります。