利益独り占め?営業努力なし?新旧宿泊施設に生じる軋轢

だが、渡鹿野島が浄化に舵を切ってから20年経った今でも、問題は山積みだ。現在の島の人口は150人ほどで、平均年齢は70代。そんな高齢化の波を打破しようと、コロナ前には志摩市と交渉して「地域おこし協力隊」を始めたが、いまだに渡鹿野島に移住してもらえたケースはゼロ。

そうした現状には「売春」という名の一大産業に支えられてきたことが大きな壁になっているという。

「ここは長年にわたって観光業で栄えてきた島だから、それが衰退した今、島のなかに仕事がないのよ。働き先がないと生活できないわけだから若い人が住みつかないんだわ。島の子どもたちも、高校進学と同時に(島を)出ていってしまう。

それに若い人がおらんと島を活性化するアイデアも出てこんし、なにか新しいことをやろうという気概もなくなる。せめてもう少し観光客が来てくれたらええんやけど、コロナ前よりも減ったからなぁ……」

客引きへの注意を促す看板が“売春島”の名残を感じさせる(撮影/高木瑞穂氏)
客引きへの注意を促す看板が“売春島”の名残を感じさせる(撮影/高木瑞穂氏)

渡鹿野島には、現在も7つの旅館とホテルが営業中。だが、取材を続けるうちにある島民の女性は「実際に観光客が泊まるのはAさんが手掛ける旅館だけ。そこは建物のなかにレストランとかバーも併設してるから、ちっとも島にお金が落ちんのや」と愚痴をこぼす。

同じような不満がほかの島民からも上がるなかで、島の観光協会関係者からは「Aさんのところに比べて、ほかの旅館があまりにも努力してなさすぎる」という声もあった。

渡鹿野島へ渡船でやってくる観光客たち
渡鹿野島へ渡船でやってくる観光客たち
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「Aさんとこはコンサルタントも入れて、観光客に向けてアプローチしたり、客室を改装したりしていろいろとがんばっとる。せやけど、ほかの旅館からはそれが感じられない。過去にすがってお客さんが来ないと嘆いているだけや。

そりゃ売春島だった時代は黙っててもお客さんが来るからラクやったろうけど、今は努力しなきゃどうしようもないやろ。まぁみんな年もいってるし、どうすればお客さんが戻ってくるかわからないんだろうけど、こんなんじゃ島がしぼんでいく一方だよ」(観光協会関係者)

渡鹿野島のメイン通りには、まるで時が止まったかのように、灯ることのないスナックの看板が並んでいた。

取材・文・撮影/神保英二
集英社オンライン編集部ニュース班