〈後編〉

29歳で仕事を辞めひきこもった兄

新潟県長岡市出身の間野成さん(57)には、ひきこもり歴30年以上の兄(65)がいる。

「兄が変わってしまった」と間野さんが最初に感じたのは自分が小学校に入ったころ。9学年上の兄が高校の普通科に落ちて、すべり止めの高校に通い始めたときだ。

「それまでは取っ組み合いの喧嘩をしたり、兄とはそれなりにコミュニケーションがあった。力は圧倒的に兄が上なので、ほぼ僕が泣いて終わるんですけど(笑)。それが、高校受験に失敗してから、兄は近寄りがたいというか、怖い人になっちゃって。話しかけることもできなくなったんです」

間野成さんが4歳、兄が12歳の頃の写真
間野成さんが4歳、兄が12歳の頃の写真
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兄は1浪して神奈川県の工業大学に進んだが、中退。実家に戻ると地元の工場で働き始めた。

間野さんも1浪して東京の美術大学に進学。大学2年生のときに父親から電話があり、兄が工場を辞めて、「部屋から出なくなった」と告げられた。

1988年の秋、兄は29歳だった。

「そのころはまだ、ひきこもりという言葉は使われていませんでした。後から地元の友人に聞いたら、その工場は当時からブラックで有名だったみたいですね。父親に厳しく言われて、兄はハローワークにも行ったけど、次の勤め先は見つからなかったそうです。

聞いた瞬間はびっくりしたけど、もともと会話もできない状態だったから、ついにそうなってしまったかとも思った。父も母もどうしていいかわからない様子でしたが、僕も最初は知らんぷりしていたんです。考えたところで何かできるわけでもないので、考えないでおこうと」