メディア全体で再検証してもらえるようになれば…

━━監督ご自身は、当初、林眞須美について「犯人に間違いない」と思い込まれていたそうですが、取材する中でこれは「冤罪」だと考えが変わられていったのでしょうか?

いまは、冤罪の可能性が高いとは思っています。ただし、「無実」なのかどうかは私には、わかりません。ただ、裁判の認定において、明らかにこれはおかしいだろうという点があり、それが見過ごされたままになっているということに疑問を持っています。

あと、この映画によって、そうか、これは報じてもいいんだとメディア全体で再検証してもらえるようになったらという希望をもっています。

この映画を撮るキッカケにもなった林眞須美・健治夫妻の長男。(C)2024digTV
この映画を撮るキッカケにもなった林眞須美・健治夫妻の長男。(C)2024digTV

━━なるほど。映画は衝撃的なラストを迎えます。あの場面を加えずに映画として終わるという選択もあったように思いますが。

この事件の根幹にあるのは、マスコミの報道の在り方についてだと思っています。「メディア・スクラム」とも言われた報道の過熱によって、見るべきものが視えなくなっていった。この映画は、そこを批判的に描いています。

たとえば、冒頭の被害者家族の男性が事件現場跡で花を手向けるシーンで、集まっていた取材記者が「いまのを、もう一回」とお願いするのを見せています。メディアを批判的に捉えてきたにもかかわらず、自分の中にも彼らと同根のものがあった。俯瞰して見ていたはずの自分もまた、批判されるべき側のひとりでもあるというのは描いておく必要はあると思ったんです。

━━それは自身を断罪するような?

そうですね。当時あの事件が起きたときに自分がいたらと考えたときに、ある種の正義感や功名心から、同じことをしていたのかもしれない。そう思いもしました。

(C)2024digTV
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〈前編はこちらから:『林眞須美の長男が誹謗中傷にあい、一時は映画公開中止の危機も…和歌山カレー事件を追った映画『マミー』、眞須美の夫・健治氏が出した「取材を受ける条件」とは…』〉

取材・構成/朝山実 サムネイル/(C)2024digTV

映画『マミー』
8月3日(土)より東京 シアター・イメージフォーラム、大阪 第七藝術劇場ほか全国順次

和歌山カレー事件、林眞須美の「死刑」判決の真実はどこへ? 「報道の過熱によって、見えるものが視えなくなっていった」26年目の真相を追う映画『マミー』の監督が問うメディアの在り方_5

監督:二村真弘
プロデューサー:石川朋子、植山英美(ARTicle Films)
撮影:髙野大樹、佐藤洋祐
オンライン編集:池田聡 整音:富永憲一
音響効果:増子彰 音楽:関島種彦、工藤遥
製作:digTV 配給:東風
2024 年/119 分/DCP/日本/ドキュメンタリー
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