実態がわからなくなってしまった失業者数
ただし、短期間にこれだけ多くの変更が行われた結果、失業者数が本当に変化したのかどうかを見極めることが、時期によっては不可能になってしまった。
英国国家統計局が調べたところ、「データに大きな影響を与える変更」は9回行われていた。それはつまり、そうした変更をまたぐ期間での経時的な比較はできないことを意味している。
最終的に政府は、過去にさかのぼって、変更を行う前の失業手当受給者数を示すデータを公表した。それらのデータは、何十年も前にさかのぼって当時の状況を調べたり、過去と現在の状況を大まかに比べたりするうえで、とても役立っている。
これらのデータによって、一般の人々は少なくとも「同じもの同士を比べる」ことができるようにはなったとはいえ、統計データをここまで大幅に修正するのは果たして正しいことなのだろうか。
過去の変更によって失業者数から除外された人たちは、失業手当をもらうための列に2週間おきに並んでいる生身の人間だったのだ。
統計データに表れるほどの大きな方針変更は、そこで起きたことの重要な部分を物語っているはずだ。
異なる手法で同じものを測るとまったく逆の傾向が示されてしまうという事態に、なぜ陥ってしまったのだろう? 同じものを数えるのにさまざまな手法があるため、どんな議論においても、自分の主張の裏づけになるような都合のいい統計データを好きに選べるような状況に、なぜ陥ってしまったのだろう?
さらには、物事を数える方法があまりに何度も変更されたために、当時実際に起きたことを数年後に振り返ろうとしても、ぼやけた情景しか描けないような事態に、なぜ陥ってしまったのだろう?
これらの原因の一つは「車輪の再発明」、つまり、すでに確立されていることを再び一からくりなおすことと関係している。新たに発足した政権は、前政権時のことは一掃して、まったく新しいスタートを切りたがるものだ。
それは、一方では「前政権の仕事ぶりはひどかったが、自分たちはもっとうまいやり方を考え出せる」と本当に思っているからでもあり、一方では、新政権の歩みを前政権のものと決して直接比べさせまいとするためでもある。
また、政府が統計データを重視する姿勢も、年代とともに変化した。この変化は政治的な周期に従って起こる傾向があり、通常は、発足直後の政権が新たな取り組みを進めていることを急いで示したいときに大きな変更が行われる。
さらに、データをどう利用するかについては、政権によって考え方がまったく異なっている。
通常、政策上の問題が解決されるには、一つの政権の期間より長くかかることが多いため、そうした問題について一貫性を保ちながら長期間にわたって追うことのできる方法をとることが、最も理にかなっているといえる。
だが、それにもかかわらず、ことあるごとに再び「ゼロ年」から始めようとする心理が働くのだ。正当かつ現実的な理由と政治的な理由という2つの要因があることを考慮すれば、そうしたくなる気持ちは容易に理解できる。
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