数える基準が変われば、失業者数も変わる
「失業者数は300万人を記録し、今後さらに増える見通し」という見出しが第一面に躍った、1982年1月27日の『タイムズ』紙では、英国の失業者数がこの記録的な数字を初めて超えたと報じられた。
その前日、国会でこの数字を公表したマーガレット・サッチャー首相が、「改善の兆しはある」といくら言い張っても、やじが飛びつづけたという。
「マギーの何百万もの失業者たち」(注:「マギー」はサッチャー首相の愛称)と呼ばれた失業者の数は、1987年ごろまで300万人を下回ることはなく、1980年代に最も激しい論争を巻き起こす起こす問題の一つとなった。
国会議事堂と川をはさんで、ちょうど向かい側に本部を設けていた大ロンドン議会も含めた一部の労働組合評議会は、管轄地域における最新の月次総失業者数が書かれた横断幕を、市役所に掲げる行動に出た。
夜のニュースでは、「本日の失業者数」というコーナーができ、世間はまるでこの数字に囚われたかのようになった。それは、2020年の新型コロナウイルス感染症パンデミック時に発表されていた感染者数への世間の反応とよく似ていた。
政府に批判的な人たちは、失業者数のわずかな上昇さえも見逃さず、この政府は国を危うくしていると責め立てた。一方、数字が下がると、政府は野党に得意げに見せびらかした。
だが、1980年代が進むにつれて、公表される失業者関連データの算出方法が何度も微調整されていることに、人々が気づきはじめた。
さらには、ある計算によると、微調整どころか、「どういった人を失業者数に含めて、どういった人を外すか」といったかなり大きな変更(外すほうがより頻繁に行われた)も含めて、1996年までに計31回以上の変更が行われたという。
そうした変更のなかには、うわべだけのものもあった。1981年11月、失業中で補足給付金(所得補償)を受け取っている60歳以上の男性に対して、今後は失業手当を受け取らなければ、代わりに補足給付金を増額するという条件が提示された。
この変更によって、約3万7000人の男性が失業者として数えられなくなったが、それでも彼らが給付金を受け取っていたことに変わりはなかった。
さらに、1983年にはこの制度がさらに拡大され、失業手当を受給している60歳以上のすべての男性に対して、今後は失業手当を受け取らないことにすれば、代わりに事実上の引退を認めると提示された(引退すれば年金が支払われる)。
この変更では、16万2000人が失業者数から除外された。