あまりに乱暴な神宮外苑開発計画
気候変動を主題にした『人新世の「資本論」』を上梓してからというもの、環境問題や過剰な「開発」をめぐって、さまざまな相談をもちかけられるようになった。大阪市の街路樹伐採、千葉の里山のメガソーラー建設、新宿御苑への放射性物質を含む汚染土持ち込み計画、そして神宮外苑再開発……。
ネットで情報を拡散したり、勉強会で話をしたりすることは簡単にできるが、それで十分なのか。当事者たちの深刻な訴えを前に、自分に何ができるかを自問する。
毎日新聞の連載の取材で、都営霞ヶ丘アパートに住んでいた菊池浩一さんに話をうかがったときもそうだった。2021年の東京五輪を前に、新国立競技場の建設と神宮外苑エリアの「整備」という名目で、菊池さんたちが長年暮らしてきた都営住宅は解体された。
高齢の住民たちによるアパート廃止反対の声は、五輪というお祭り騒ぎにかき消された。立ち退きに伴い斡旋された転居先は複数にわたり、住民同士助け合っていたコミュニティも失われたという。仕事で手を失った不自由な身体で転居を余儀なくされた菊池さんに取材しながら、「強い者が勝つ」という、そんな再開発でいいのか、と憤った。
実際、強者は五輪にまつわる再開発でおおいに得をしている。かつての霞ヶ丘アパートの隣には、新築されたJSC(日本スポーツ振興センター)の高層ビルと超高級タワーマンションがそびえ立つ。
五輪を理由に建物の高さ制限が大幅に緩和された結果、認可された高層建築だ。そもそも、高さ制限の撤廃が目的で、神宮外苑エリアが五輪の会場になったという話さえある。
そしてより深刻な問題は、あまりに乱暴な形でさらなる神宮外苑開発計画が続いていることである。これから神宮外苑エリアに三棟もの超高層ビルが新設される。つまり外苑一帯の100年の歴史をもつ森が破壊され、高層ビルが林立する計画なのだ。おかしなことに、SDGsを謳う大企業がその陣頭に立っている。