「アイム・ザ・キング・オブ・ザ・ワールド!」

94年、キャメロンはフランス映画のリメイク『トゥルーライズ』を監督。これも『アビス』と同じく離婚寸前の夫婦が命がけで助け合うことで絆を取り戻す物語だった。

そして96年、キャメロンは『タイタニック』に取り組んだ。この映画史上最大のヒット作については今さらあまり書く必要はないだろうが、ショーン・フレンチ著『「ターミネーター」解剖』の訳者あとがきで矢口誠氏が指摘しているように、『ターミネーター』との類似点が多い。

まず、タイタニックを探査する現代と、タイタニック沈没時の過去という2つの時間軸が並行して進む構造がよく似ている。

カイルがサラの写真に一目惚れしたように、主人公の貧しい画家の卵ジャックは上流階級の令嬢ローズを見た途端に恋に落ちる。好きでもない資産家と結婚させられるローズは、サラと同じように、人生にうんざりしている。

そしてジャックと結ばれ、愛を知って強くなったローズは水中に取り残されたジャックを救出するなど大活躍。最後にジャックは息絶えるが、ローズは彼からもらった勇気を胸に強く自立して生きていく。

『タイタニック』DVD版(2013年、ウォルト・ディズニー・ジャパン)
『タイタニック』DVD版(2013年、ウォルト・ディズニー・ジャパン)

「あなたはあなたが思っているよりもずっと強い人です」というジョン・コナーが母に捧げた言葉は、キャメロンの全作品を貫く、世界中の女性たちへのメッセージだ。

ビル・ウィッシャーは『ターミネーター』のことを「銃撃戦付きの『素晴らしき哉、人生!』だ」と言っている。『素晴らしき哉、人生!』(46年)の主人公ジェームズ・スチュワートは事業に失敗して「生まれてこなければよかった」と自殺を図るが、天使に「自分が生まれてこなかった世界」を見せられる。

町は荒廃し、愛する人々は悲惨な運命をたどっていた。どんな小さな人生でも未来に影響を与える。「人は誰でも可能性を秘めている。それに目覚めてほしいんだ」とキャメロンは言う。

『タイタニック』のジャックはキャメロン自身でもある。絵しか取り柄のない、学歴も金もない田舎のブルーカラー出身の青年だが、野望と夢だけは誰よりも大きかった。

キャメロンはハリウッドというタイタニックに立ち向かってそれに勝った。98年のアカデミー賞では『タイタニック』は11部門で受賞し、キャメロンは持ち切れないほどのオスカーを抱えて叫んだ。

「アイム・ザ・キング・オブ・ザ・ワールド!」