『ブレードランナー』の背景には、ヒッピーたちへの違和感

『ブレードランナー』の原作はフィリップ・K・ディックが1968年に発表した小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』である。

舞台は未来のサンフランシスコ(当時ディックが住んでいた)。主人公のデッカードは賞金稼ぎ(バウンティハンター)。人間に混じって逃亡中のアンドロイドを狩り出して処分するのが仕事だ。

アンドロイドはメカニカルではなく、バイオ工学で造られているので肉体は人間と何も変わらない。唯一の違いは「他の生き物に感情移入できない」という点のみ。

それを判定するには「ヴォート・カンプ方式」と呼ばれる共感テストが使われる。「牛革の財布」「蝶の標本」「熊の毛皮の敷物」「生きたエビの料理」などの言葉に対する眼球の反応を測るのだ。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1977年、早川書房)
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1977年、早川書房)
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ディックがこの小説を書いた60年代後半のサンフランシスコは、サマー・オブ・ラブ、ヒッピー・ムーヴメントの真っ最中だった。

人間のように見えて内面がまったく理解不能なアンドロイドたちには、当時40歳のディックから見たヒッピーたちへの違和感が投影されているといわれる。

反乱アンドロイドのリーダー、ロイ・バッティは、アンドロイドのための新興宗教の教祖で、69年にロマン・ポランスキー監督夫人らを殺害したヒッピー・カルトの教祖チャールズ・マンソンがモデルだと思われる。

ディックは『電気羊~』を書いた直後、その映画化に関するアイデアをメモしているが、そのなかであっけらかんとデッカードとセックスするアンドロイド娘のレイチェル役にサンフランシスコのサイケデリック・バンド、ジェファーソン・エアプレインのボーカル、グレース・スリックをキャスティングしたがっていた。