気づけば本を読んでいなかった社会人1年目

ちくしょう、労働のせいで本が読めない!

社会人1年目、私はショックを受けていました。

子どものころから本が好きでした。読書の虫で、本について勉強したくて、文学部に進学した文学少女。でもあるとき、本を読み続けるにはある程度のお金がいることに気づいたのです。ハードカバーも文庫本も、買い続けるにはお金がかかりました。そこで就職活動をしたところ、運良くIT企業に内定をいただけた。私はこれ幸いと就職しました。

はっきり言って、好きな本をたくさん買うために、就職したようなものでした。

しかし就職して驚いたのが、週に5日間毎日9時半から20時過ぎまで会社にいる、そのハードさでした。

──週5でみんな働いて、普通に生活してるの? マジで? 私は本気で混乱しました。

……こんなことを言うと、社会人の先輩各位に怒られそうです。「いやいや9時半から20時くらい、働き方としてはハードじゃないでしょ」と苦笑されるでしょう。私も学生時代はそう思っていました。でも、やってみると案外それは疲れる行為だったのです。

歯医者に行ったり、郵便物を出したり、宅配の荷物を受け取ったりする時間が、まったくない。飲み会が入ってくると帰宅は深夜になる。なのにまた翌朝、何事もなかったかのように同じ時間に出社する。ただ電車に乗って出社し帰宅するだけで、けっこうハードだなあ、と感じました。

とはいえ、仕事の内容は楽しかったのです。会社の人間関係は良くて、やっていることも興味があって面白い仕事でした。

しかし──社会人1年目を過ごしているうちに、はたと気づきました。

そういえば私、最近、全然本を読んでない!!!

夜遅くまで労働するイメージ 写真/Shutterstock.
夜遅くまで労働するイメージ 写真/Shutterstock.
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本を読む時間はあるのに、スマホを見てしまう

正直、本を読む時間はあったのです。電車に乗っている時間や、夜寝る前の自由時間、私はSNSやYouTubeをぼうっと眺めていました。あるいは友達と飲み会で喋ったり、休日の朝に寝だめしたりする時間を、読書に充てたらいいのです。

だけど、それができなかった。本を開いても、目が自然と閉じてしまう。なんとなく手がスマホのSNSアプリを開いてしまう。夜はいつまでもYouTubeを眺めてしまう。

あんなに、本を読むことが好きだったのに。

そういえば最近書店にも行ってない。電子書籍も普及してきて、その気になればスマホで本が読める時代なのに。好きだった作家の新刊も追えていませんでした。なんだか自分が自分じゃないみたいだった。だけど翌朝電車に乗ると、またSNSを見るだけで、時間が過ぎる。同級生は器用に趣味と仕事を両立させているように見えるのに。

私には無理でした。

働いていると、本が読めなくなるのか!

社会人1年目。そんな自分にショックを受けました。が、当時の私にはどうすることもできませんでした。

結局、本をじっくり読みたすぎるあまり─私が会社をやめたのは、その3年半後でした。

今の私は、批評家として、本や漫画の解説や評論を書く仕事に就いています。会社をやめたら、やっぱりゆっくりと本を読む時間がとれたのです。それゆえに今は、たくさん本を書く仕事ができている。ですが今の読書量は、あのまま会社員を続けていたら無理だっただろうな、と思います。会社で働きながら充分に本を読むことは、あまりに難しいからです。