「ケーキの分け方」から学ぶ法的思考の重要ポイント
「ケーキの分け方なら知っているよ。2人のうち片方が切って……」と思った方も、ちょっとだけお付き合いください。話はそう簡単ではありませんので。
山田家には、太郎と次郎の兄弟がいます。おやつの時間になりましたが、冷蔵庫の中には、ショートケーキが1個しかありません。今にも喧嘩になりそうな2人の様子をみて、お母さんは、太郎にナイフを渡し、2つに切って分けなさいと命じました。
そこで、ずる賢い太郎は、ちょうど半分に分けるのではなく、大きめと小さめとに切り分けて小さいほうを次郎に渡しました。結局は喧嘩になったわけですが、こうした事態を避けるには、お母さんはどうすればよかったのでしょうか。
人類は古くからその答えを知っていました。旧約聖書の創世記には、アブラハムが一緒に旅をしていた甥のロトと袂を分かち別々の土地に住むことを決めた際、アブラハムが土地を左右に分けて、ロトに好きな方を選ばせました。
この「一方が切って、一方が選ぶ(Cut-and-Choose)」という手順は、切る側に「どちらが残っても満足できるような切り方をしよう」という気持ちを生み、選ぶ側には好きな方を選べたという満足感が残りますので、喧嘩になりにくいものです。
山田家のお母さんも、太郎にナイフを渡す際に「次郎に選ばせる」ことを告げていれば、喧嘩を避けることができたでしょう。
では、山田家に花子という妹がいた場合はどうすれば良いでしょうか。同じ発想からすれば、まず太郎が半分に切り、次郎が一方を選んだあと、太郎と次郎がそれぞれ半分ずつになったケーキをさらに3等分し、最後に花子が太郎の側から1つ、次郎の側から1つを選ぶことにすれば、話はおさまりそうです。
この登場人物を3人以上とする公平分割問題は、第二次世界大戦中であった1944年に、ポーランドの科学者H・D・シュタインハウス(Hugo Dyonizy Steinhaus)によって提起され、それ以来、たくさんの数学者の心を捉えてきました。
1995年に、スティーブン・J・ブラムス(Steven J.Brams)とアラン・D・テイラー(Alan D.Taylor)が、人数が無限に増えても大丈夫な分割方法(ブラムス・テイラー法)を発表したことで、この分野の研究は大いに発展しました。
しかし、いくら数学的に可能でも、それでは一番大事なケーキを美味しく食べるという目的が損なわれてしまいます。「法的思考」にとっては、目的を見失わないことがとても大事なので、時には次善の策(例えば、お母さんに3等分してもらう)を考えることも必要となります。