「転落人生」と書かれたのは心外だった
かつてNHK大河ドラマにも出演し、山田洋次監督作品「学校Ⅲ」では日本アカデミー賞新人俳優賞も受賞、天才子役の呼び声高かった黒田勇樹氏。
彼は言葉を選びながら「名や顔が売れていると、やましい考えを持った大人たちが甘い誘いをしてくるのは確かだ」と話す。黒田氏自身の経験談と、芸能界引退からこれまでを聞いた。
――そもそも黒田さんはなぜ芸能界を引退したのでしょうか。
黒田勇樹(以下、同) 僕は物心ついた頃から芸能人のマネージャーだった母親や、その友人にオーディションを受けるのを勧められ、言われるがままに芸能界に入った身なので、なんとしても芸能界にしがみつこうという思いはなかったんです。自分には職業経験が必要だと思って、28歳で俳優をやめて、さまざまなバイトをしました。
――なぜ職業経験が必要だと思ったんですか。
僕の場合は幼い見た目もあって、20代でようやく高校生役がまともに演じられるようになった感じでした。でも、いつまでも高校生を演じるのには限界がある。次に何を演じるのかとなったら社会人役になるわけですが、そもそも自分にはその経験がない。いずれ演じたいからという理由ではなく、まず経験をしたいと思ったんです。
それでまずは派遣会社に登録し、会社の事務から掃除までさまざまなバイトを経験しました。その後、今度はデスクワークをしようとコールセンターでバイトを始めたら、トントン拍子で主任まで昇進して。
でも、土日に引っ越し屋のバイトをしていたときに週刊誌にスッパ抜かれて「転落人生」とか書かれたんです。僕としては心外でしたね。別に俳優を続けたかったのに続けられなかったわけじゃないんだけど…と。
――俳優をやめてバイトをすることに抵抗はありましたか?
もちろん、ないことはない。説明が難しいんですが、僕のなかにプライベートの自分とオフィシャルな自分の二面性があるんです。運転手が俳優としての黒田で、助手席に素の僕が座ってナビゲートしてる感じ。素の僕は「俳優以外にも仕事はある。なんでも経験したい」というドライな思いがありましたが、俳優としての黒田は「もう2度と脚光を浴びることはないのか」とも思っていて、そこに葛藤がありました。
でも、実際には「なんでも経験したい」という思いを選んだということです。