テロ実行犯「ISIS-K」とは?

犯行声明を出したのはISの一派「ISホラサン州」(ISIS-K)だ。

「現在アフガニスタンを統治する、同じくイスラム教スンニ派のタリバンの盟友である『パキスタンのタリバン』に不満を抱いた戦闘員が2015年に設立した組織と言われています。

2021年に米軍を追い出し、アフガンの実権を握ったタリバンを西側社会は“過激派”とみなしていますが、タリバンは実際には米中ロなど大国との関係樹立をうかがっています。そのタリバンを“イスラム社会の(キリスト教徒との)闘争に対する裏切り者”とみなす超過激派がISIS-Kです」(大手紙外報部記者)

実際、米軍を追い出したタリバンは、その後アフガン国内でISIS-Kとの戦いに手を焼いている。ISIS-Kは2022年にも首都カブールでロシア大使館やパキスタン外交官、中国人が多く利用するホテルを襲撃。これに対し、タリバンは昨年、ISIS-Kの幹部を少なくとも8人殺害し、多数の戦闘員をパキスタンに追いやったとの米当局の分析が報じられている。

ISIS-Kの実行犯が撮影して公開したとみられる動画のスクリーンショット
ISIS-Kの実行犯が撮影して公開したとみられる動画のスクリーンショット

だが、ISIS-Kはパキスタンやイランでも活動を活発化。今年1月には米国が2020年にドローン攻撃で殺害した、イラン革命防衛隊の精鋭コッズ部隊のカシム・スレイマニ司令官の追悼式典を爆弾テロで襲い、100人以上を殺害した。

モスクワの劇場襲撃の前日にはタリバン運動発祥の地であるアフガン南部、カンダハルで自爆テロも起こしている。

西側だけでなくイスラム諸国、中国に対してまで“全方位”の攻撃を続けるISIS-K。今回のロシア攻撃の狙いは何か。ロイター通信は「ロシアがイスラム教徒を日常的に抑圧しているとISIS-Kは見ている」との米専門家の見方を紹介している。

「ロシアはタリバン政権を承認していませんが、タリバンはモスクワに駐在武官を置いています。ISIS-Kは犯行声明で『イスラム教と戦う国々と、ISとの間で激化している戦争の中で起きた』と主張しました。

ロシアはイスラムの敵だと強調し、ロシアに近づくタリバンはイスラム政権としての正統性に欠けると印象づける狙いもあるでしょう」(同記者)