「今時、アホなラブソングなんて歌ってられるか」に全英の若者が夢中に

1970年代半ば。ロックの商業化や有名バンドのアメリカ逃れ、深刻化する経済不況や失業問題、搾取が蔓延る社会体制への不満などが絡み合いながら、ニューヨークで生まれたパンク・ロックは大西洋を隔てたロンドンで爆発した。

ファッション・デザイナーでブティック経営者のマルコム・マクラーレンという30歳過ぎの野心家は、自分の店<SEX>にたむろする少年たちにバンドを結成させる。それがセックス・ピストルズだった。マルコムがシナリオを描き、4人のメンバーが演じるプロジェクトのようなもの。

『Agents Of Anarchy 』(アナログレコード/DOL)。写真/shutterstock
『Agents Of Anarchy 』(アナログレコード/DOL)。写真/shutterstock
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インパクトのあるファッションや髪型、ロックの衝動を蘇らせたラフな演奏と反体制溢れる歌詞、レコード会社との違約金目当てのトラブル、各地のライヴ会場での締め出し、TV番組での過激な発言やパフォーマンスは、フラストレーションが溜まった全英の若者たちから熱い支持を得る。

「今時、アホなラブソングなんて歌ってられるか」と言い放ったピストルズの登場によって、イギリス中に次々とパンク・バンドが生まれ、無数のパンクスたちがストリートを歩くようになった。1976〜77年はパンクがすべてになったのだ。

さらに1977年6月、全英チャートでピストルズの『God Save the Queen』が2位に到達。10月には唯一のアルバム『Never Mind the Bollocks』をリリースして遂にナンバー1に。マルコム劇場は頂点を迎える。

『Sex Pistols - God Save The Queen』。Sex Pistols Officialより

しかし翌年1月、アメリカでのツアー中にジョニー・ロットンが突如として脱退。ピストルズはあっけなく失速していく。

その後は残されたメンバー3名(スティーヴ・ジョーンズ、ポール・クック、シド・ヴィシャス)で活動は継続されるが、パンク・ロックの牽引的存在としての役割は事実上終えていた。