過去に依存しないから、誰にどう思われてもいい
過去への執着心のなさも、プライドを捨てられる理由だった。
「私は過去に依存せず、キャリアを捨てる勇気があるんですよ。小学生で天才てれびくんに出演していたけど、SNSのプロフィールに『元てれび戦士』とは書きたくない。
出演できたのはうれしいけど、小学生時代の肩書きを語り続けるのは過去の栄光にずっとしがみついてる感じがして嫌です。
芸能界を引退するときも周りから『めっちゃ後悔するよ』って散々言われましたけど、未練はありませんでした。自分が築き上げた過去よりも、なりたい自分で今を生きたいし、過去を超えられる自分でいたい。
もったいないからってキャリアを捨てられない人が多いなか、サクッと捨てられるのは自分の強さだと思ってます」
「肩書きに依存しないようにしよう」と思っても肩書きや栄光が大きいほど捨てるのは難しく、なかなかできないものだが、てんちむは「過去の栄光を守ること」に興味がなく「なりたい自分になること」を欲した。
なりたい自分になるためなら、過去の自分が積み重ねてきた実績も肩書きも、丸めてゴミ箱に捨てられる。
自己プロデュース力を生かし「自分をどう見せたらいいか」を理解して行動に移していることを「あざとい」「計算高い」と感じる人もいるだろうが、てんちむのすさまじい行動力の裏には一般女性・橋本甜歌の逃れようがない絶望がある。「求められないよりは求められたほうがいい」という価値観のもと、橋本甜歌を殺してきた。
てんちむは炎上から復帰するにあたり、「てんちむを死なせる」か「橋本甜歌を捨てる」の2択から「橋本甜歌を捨てる」を選んだ。
ユーチューブを引退し、2億2,000万円の貯金を支えに橋本甜歌として暮らす道もあったが、橋本甜歌のプライベートを捨てててんちむの仕事にフルコミットする道を選択したのだ。
当時の心境は、インスタグラムの裏アカウントに綴られている。取材中にポンと送られてきたのだが、読んだ瞬間にぎゅっと心臓を掴まれ、言葉が出なくなった。この文章を読んで、てんちむの炎上対応を「計算高い行動」と言うには代償が大きすぎると思った。