なぜ、なぜポップに振った!?

読まねばならないのは村上龍先生の新作書き下ろしの原作小説でした。
その能力を失って地球に落ちてきたスーパーマンのいとこ、ゴンジー・トロイメライを巡って渦巻く陰謀。ゴンジーの底知れぬエネルギーを秘めた体細胞を狙うバイオ企業体“ドアーズ”から、心優しく弱き超人を守るのは音楽とダンスそして自由を愛する若者たち。
製薬会社とファミレスと精神病院を経営するドアーズの、やがて明らかになる真の目的。
目指すのはドラッグで大衆を洗脳して徹底的に管理された全体主義社会。まるでキューブリックの『時計仕掛けのオレンジ』(1971)です。 

樋口真嗣を映画の道に進ませたシン・原点。それは「すごいものを作る機会がなぜ失われたのか?」という疑問だった!【『だいじょうぶマイ・フレンド』】_2
樋口監督所蔵の書籍『メイキング・オブ・だいじょうぶマイ・フレンド』。原作小説からシナリオ、挿入歌歌詞まで網羅

ゴンジーが告白するその出生の秘密もなかなかフリーキーで、『コインロッカー・ベイビーズ』に登場する「薬島」と呼ばれる汚染された新宿の高層ビル街を彷彿とさせ、映画への期待はいやが上にも高まります。
音楽面でもサディスティックミカバンドの加藤和彦を音楽監督に迎え、豪華なメンバーが書き下ろしの楽曲で映画を彩るだけでなく、先行して発売されたメインキャスト3人版と、プロデュースを手がけた前出の加藤和彦版、それぞれが歌う主題歌が別々のレーベルから同時発売、しかもヒットチャートを賑わせて今までの日本映画では考えられない展開になってきました。

そして1983年4月29日、ついに公開の日が来ます。

この連載は、私が高校2年生だった時の1年間の間に出会って人生を狂わせた映画を取り上げるという暗黙のルールを設定してきましたが、3年生になってから見た作品を取り上げてしまうこと、連載を20回を重ねてきたのでお許しいただきたい。原作小説の発売は2月だから、ギリギリ高校2年生だったし。
もう限界なんですいろいろ。

で、高校3年になって最初のゴールデンウィーク。エッジの効いたサブカル的アイコンに彩られた日本映画が社会に拡散していく…はずだったのです。そうあるべきでした。
この1本で日本の映画は名実ともに新たな一歩を踏み出すのだ!と、後にも先にも何度となく犯す過ちを改めることなく信じて疑わずに足を運んだせいで、映画の未来を根拠もなく盲信した高校2年生改め3年生はとてつもないしっぺ返しをうけることになるのです。

映画の骨子は小説と同じように、能力を失った超人ゴンジー・トロイメライとその細胞を狙うドアーズの争奪戦、そしてドアーズが企む陰謀。
そこに立ちはだかるのは音楽とダンスと自由を愛する3人の若者で、ドアーズはその若者たちを狙い、従順なジャンキーにして手懐けようとあの手この手を繰り出します。
いっぽうの若者は若者で、俺たちの自由を脅かしゴンジーを苦しめる大人たちなんかぶっ飛ばせ!とコミュニケーションギャップを克服しながら歌とダンスで自由を勝ち取るための戦いを挑みます。

…ポップです。
期待とは違う鮮やかなポップなのです。


冒頭はニューヨークの書割りを背景にしたヒロインと外国人とのダンスシーンで始まるんですけど、これが黄金期のアメリカ映画の持つ華やかなエンタテインメントを手本として、ある程度形になってないと成立しないぐらいハードルの高い場面なんですよ。始まってすぐ夢オチとわかるので、優先順位としてはそれほど高くないはずだからそこまで頑張っても仕方ないというのに——。