複合危機の時代になぜ「自治」なのか?
――『人新世の「資本論」』に続き、ベストセラーとなった『コモンの「自治」論』。ただ、「自治」という、使い古されたかのように思える言葉を掲げた本が、話題になっているのは不思議です。なぜ、「自治」の本が好評なのでしょう?
斎藤 「自治」の力を磨く必要に迫られている時代だからでしょう。少しずつ、日本人も気が付き始めたのではないですか、「自治」の力が奪われたせいで、社会が悪くなってきていることに。
「市民が自分で決める」というプロセスが蔑ろにされることが、さらに増えてきました。たとえば、神宮外苑の再開発だって、都民が知らないうちに風致地区の指定が外されたり、樹木伐採が許可されたり。
なぜ、そのようなことが頻発するようになっているかというと、経済成長が難しいなか、資本が利潤獲得のために前だったらやらなかった、無謀なことを仕掛けるようになってきているからです。全国各地で、都市の公共空間や公園を破壊してでも、商業施設や高層ビルを建てて儲けようとする試みが増えています。
ほかにも、公営だった水道事業を民営化も同じ動きです。そうした公共のものに資本が手を出す際、資本は政治も巻き込んでいきます。とくに国政を担う国会議員が頼りにならず、多くの場合、むしろ資本の側についてしまう。そうであれば、そうした資本の暴走にNOをつきつける「自治」の力を私たちが磨いていくしかないのです。