「知らないうちに決まっていた」神宮外苑の再開発

――いま、例にあがった水道や公園など公共のものを斎藤さんは「コモン」と呼んでいますね。「コモン」が資本によって破壊されると、なにが起こるのでしょうか。

斎藤 民主主義の破壊でしょう。お金の力で、独占した空間やモノを何でも好きに使ってよい、という事態が広まれば、民主主義は先細りになるばかりです。

順を追って説明すると、まず「コモン」というのは、人々の共有財産のこと。人々が生きていくうえで欠かせない、社会全体の富のことです。たとえば水、エネルギー、食、あるいは教育、医療、科学ですね。そういった誰もが必要とする「コモン」=共有財は、多くの人が関与して管理されるべきものです。

ところが、資本は「コモン」である富を独占することで、大きな利潤を手中に収めようとする。独占ですから、当然ながら、市民の切実な声も豊かなアイディアも無視され、本来、金儲けの手段にすべきものではないものが、金儲けの道具にされてしまうのです。

〈斎藤幸平〉「人新世の複合危機」をどう乗り越えるか? “知らないうちに決まっていた”社会からの脱却に必要なもの_2

神宮外苑の再開発が分かりやすい例ですが、再開発の詳細な計画はずっと秘密にされてきました。サザンオールスターズの曲ではありませんが、「知らないうちに決まっていた」ということが繰り返されるのです。そして公表したあとには、「もう決まったことだから」と市民の声を突っぱねる。これが民主主義の危機です。

そしてもちろん「コモン」の破壊で利益を得るのは、ごく一部の強者です。一部の政治家や超富裕層、そして大企業が自分たちに有利なルールを決め、社会をますます私物化する動きが強まることでしょう。これが続けば、弱者の間で格差と分断が拡がり、弱者の生存が脅かされることになります。