いちばん高値がついたもの
生々しい話だけれど、いちばん高値がついたのは私の生まれ年に作られたロレックスの腕時計だった。それ以外では、『ダブル・ファンタジー』の取材先・香港で買ったゴールドのアクセサリー。日本では18Kが一般的だけれど香港では純度の高い24Kが主流だから、デザイン的にはいまひとつでもその日の金の相場できっちり売れた。そのほか各ブランドの、たとえば恋人にネジを留めてもらうという謳い文句のバングルやら、革ベルトを二重巻きにする時計などはキズがあってもそこそこの値がついたのに対して、ノーブランドの一粒ダイヤは最上級の鑑定書がついていても二束三文だった。それもこれも、いい人生勉強にはなった。
ふだんから仕事の窓口と経理業務その他を一手に引き受けてくれている友人〈おとちゃん〉は、
「由佳さんにそんなことまでさせて……」
と悲痛な面持ちでいたけれど、私はなぜかさっぱりとした気分だった。事情が事情だけにもっと惨めになるかと思っていたのに、そんなことはまったくなかった。
きっと、手放したものたちは皆それぞれ、私のもとでの役割を終えたのだ。縁あって私のところに来て、人生の一時期をともに過ごしてくれたけれども、今はもっと切実に必要なものと引き換えに私の手を離れ、綺麗に磨かれた上で、それを欲しいという誰かのもとへゆく。
そう思ったら執着はなかった。いっそ不思議なくらい、惜しいとも悲しいとも惨めだとも感じなかった。