ふくれあがった借金と買取ショップ
二度目の夫と離婚をしたのが夏のさなかで、これでもう大丈夫、ようやくバケツの穴がふさがった、と安堵したのもつかの間、秋口になって実際の負債額が判明した時のショックはちょっと忘れられない。借金はいつの間にやら、私の想像なんかはるかに超えてふくれあがっていた。
しかもその多くは、無担保で借りられるかわりに利子がべらぼうに高いローンだった。毎月毎月休みなく働いて必死に返しても、元金がまったく減っていかない。年に何度か税金がまとまって引き落とされる月などは青息吐息で、通帳をにらみながら付き合いのある各出版社に頭を下げまくり、原稿料や印税を前借りするなどしてどうにか凌いだ。年末、お財布の中身と銀行口座の残高を合わせた全財産が数万円を切った時には、立ち上がるどころか息を吸う気力もなかった。
クローゼットの引き出しを開け、いわゆる〈金目のもの〉をかき集めたのは、離婚から一年ほどが過ぎた秋の初めのことだ。ブランド物のバッグや靴や服などの多くはシーズンが過ぎればほとんど値がつかないけれど、貴金属は別だ。かつて取材で海外を訪ねるたび空港の免税店などで少しずつ買い求めた時計やジュエリー……思い出を辿ったりすると手放しにくくなるから、もう出来るだけ見ないようにしてあれもこれも紙袋に詰め、買取ショップに持ち込んだ。
街のショーウィンドウは一足先に色づいていた。おしゃれのいちばん愉しい季節だというのに、新しい秋服なんかには目も向かなかった。返済と日々の光熱費だけで手一杯で、とにかく破産しないための綱渡りに必死だったのだ。
渋谷の裏通り、狭苦しいエレベーターに乗り込んでビルの五階へ上がった。衝立で仕切られたブースに入ると、白い布手袋をはめたスタッフがこちらの差し出した品物を一つひとつ値踏みしてくれる。