約5万人の妊婦がいるガザの病院の深刻な状況

マリアちゃんの誕生以来、これまで悪夢のようだった日々が少しだけ明るく感じられるようになった。身体的な疲れは解消されないままだが、精神的なストレスは以前よりもだいぶ軽くなったと話す。3歳の長女も妹が生まれたことを喜び、お姉ちゃんとして振る舞うようになった。

だが当然、この状況下で2人の子どもを世話するのは大変だとイスラさんは訴える。もう長いこと水道水は出ておらず、1リットルのペットボトル1本でシャワーを済ませている。それすらできない日には、濡らしたタオルで体を拭くのみだ。衣類を洗う頻度も限られ、衛生問題も深刻さを増している。

水を得ることも困難な状況で原始的な方法で煮沸した水を作っている (写真提供=イスラさん)
水を得ることも困難な状況で原始的な方法で煮沸した水を作っている (写真提供=イスラさん)

国連人口基金(UNFPA)が11月3日に発表した推計によると、ガザ地区にいる妊娠中の女性の数は約5万人に上り、うち約5500人が数週間以内に出産を控えているとされる。約160人もの女性が毎日出産している状況だ。

多くの病院は、重傷を負った患者の治療に追われているほか、電気と水の供給も不安定で、薬や医療器具、そして医師も不足しており、妊娠女性の受け入れが困難となっている。たとえ受け入れられても出産時の緊急事態に対処するのが難しく、推計840人の女性が妊娠や出産による合併症を経験する可能性があるとみられている。

病院で無事出産を終え、家に帰ることができたイスラさんは、そうした状況をふまえると幸運なほうだったといえるだろう。だが今も、爆撃音が響く中で60人の親族らと避難生活を送る日々が続く。マリアちゃんも、誕生して間もないうちから、空爆の音や建物が破壊される音を聞いて過ごしている。イスラエル軍とハマスの戦闘が終わらないかぎり、イスラさん一家の不安や恐怖が解消されることはない。

取材・文/鈴木美優

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