ハマス幹部殺害、人質捜索を行う防諜・テロ対策組織
イスラエル人女性兵士の救出は、共同作戦といっても軍事作戦なので、軍の特殊部隊が救出作戦を主導したと思われる。シンベトは人質の所在地の特定など、情報活動で重要な役割を果たしたのだろう。ハマス幹部の殺害、あるいは人質監禁場所捜索では、こうしたシンベトの情報と軍の空爆もしくは特殊作戦との組み合わせというパターンが多い。
では、この「シンベト」とは何か。
シンベト(保安庁。シャバクともいう)は首相/首相府直属の情報機関で、イスラエル国内およびパレスチナ自治区(ガザ地区とヨルダン川西岸地区)での防諜・テロ対策を担当する。イスラエルの情報機関というと「モサド」が有名だが、モサドは国外担当で、ガザ地区などはシンベトの担当だ。今回のハマスの奇襲を事前に察知できなかった責任は第一にシンベトに責任があり、戦闘終結後に徹底調査すると約束している。
シンベトには「アラブ局」「イスラエル・外国人局」「防護保安局」がある。筆頭部局はアラブ局で、主にパレスチナ自治区内を担当し、パレスチナ各組織の活動を監視している。イスラエル・外国人局は国内のテロ対策と防諜を担当。防護保安局は空港や政府庁舎などの重要施設の警備を担当する。
アラブ局は日常的にパレスチナ自治区内で情報収集活動をしており、ときに強引な拘束・尋問も行なう。イスラエルの軍や情報・治安部局の要員がパレスチナ人に成りすまして潜入スパイ活動を行うことを「ミスタービム(潜伏)」というが、シンベトはそれを優先的任務として行なっている。
シンベトは重要施設警備や対テロの部門に武装部隊を持っているが、大規模ではない。西岸地区でテロ容疑者を追跡する場合、シンベトは「国境警察」隷下の対テロ特殊部隊「ヤマス」を出動させる。国境警察は警察の一部局で、国家安全保障省の傘下になり、首相直属のシンベトとは本来は指揮系統は別になるが、エルサレムを拠点とするヤマスは、シンベトの指揮下で実力執行部隊として出動することが多い。