正解を探しながら、その過程で進化をする

未知の問題を解く目的は、正解にたどり着くことだけではありません。仮にたどり着けなかった場合も、その過程こそが人を進化させてくれるのです。このことについて大谷選手はこう語っています。

「正解はないと思うんですけど、人は正解を探しに行くんですよね。正解が欲しいのは、みんなも同じで。『これさえやっておけばいい』というのがあれば楽なんでしょうけど、たぶんそれは『ない』と思うので、正解を探しに行きながら、ピッチングも、バッティングもしていたら楽しいことがいっぱいありますからね」(『道ひらく、海わたる 大谷翔平の素顔』扶桑社)

大谷選手がスイングするバットの軌道の数はほぼ無限です。ボールとバットのコンタクトはとても繊細で、ほんの数ミリ違っただけでホームランになったり、平凡な外野フライになったりします。
同様に、大谷選手の投げるボールの軌道も無限に存在します。軌道がほんの数センチ違うだけで、そのボールは打者のバットの芯を外れてくれるわけです。

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バッティングにもピッチングにも、確実な正解は存在しないのです。そうなれば、ボールを投げる作業、あるいはバットを振るプロセスを繰り返し試してみるしかありません。つまり、大谷選手にとって、本番は普段の練習の成果を試す実験場なのです。
20世紀に評価されたのは、既存の知識を駆使して一つしかない解答を出せる人間でした。

一方、21世紀型のニュータイプの人間は、常に自分にとっての理想像を鮮明に脳裏に描きながら、目の前の現実の自分と比較して、そのギャップを埋めるために行動を起こし、そのプロセスで徐々に自分を進化させていく人間と定義できます。
 
終着点に到達することを最優先するオールドタイプの人間が活躍する時代はすでに終焉を迎えています。これからの時代は、到達がほぼ不可能な理想像を描き、その過程で進化の手掛かりを求め続ける、大谷選手のような思考法を持つ人間だけが成功できるのです。