対ロシア戦でのCIAの暗躍ぶり

こうした支援を得て、ウクライナのSBUはロシア側の情報を入手する手段をある程度、獲得した。

そのため、昨年のロシア軍侵攻の後も、SBUはロシア側の重要な標的について決定的な情報入手に成功し、数人のロシア軍司令官を殺害した。ゲラシモフ参謀総長を間一髪で逃した攻撃も、作戦の一環だったという。

ウクライナ軍の若い女性兵士
ウクライナ軍の若い女性兵士

ただ、戦場以外での非軍人への多くの暗殺工作を実行することもあり、CIAとは適度な距離感を保ちつつ、現在も協力関係は続いている。キーウにはいまだにCIAの工作員がおり、充分に活動しているとのこと。なお、昨年、SBUは自分たちの通信網にロシア製モデムが使用されていることを発見し、大規模な撤去作業を行ったという。SBU自身、いまだにロシア情報機関の標的なのだ。

一方、ウクライナのGURとCIAの関係はもっと密接だ。

GURの将校は若手が多く、ロシアの内通者がいる懸念はほとんどなかった。若手中心のため、CIAは将校たちを一から育成し、要員をウクライナと米国の両方で訓練した。高度な監視システムに加えて、各部局にはそれぞれ設備の整った本部施設を供与したという。SBUよりはるかに少ない5000人以下の陣容だったので、部隊の整備も容易だったようだ。

そして、この少数精鋭のGURが実戦で大活躍した。

まず、CIAはかねてGURの電子戦部隊専用の施設を建設しており、そこでは毎日、ロシア軍とFSBの25万~30万本の通信を傍受してきたという。もちろんGURだけですべての分析は無理なので、そのデータは米国に送られ、CIAと米国防総省の信号情報機関「国家安全保障局」(NSA)の分析官が解析した。つまり、現場で情報を集めるのはウクライナの要員だが、ロシアとの情報をめぐる戦いに米情報機関は直接、参戦していたことになる。

そうなれば、IT技術力で優る米国の圧勝。ウクライナ軍はロシア側の筒抜けの情報を随時入手し、戦場で有利に戦うことができた。なお、GURに供与したものには、たとえばロシア支配地域の回線に設置できるモバイル機器だとか、あるいはモスクワからロシア占領地を訪問するロシア政府高官の携帯電話に仕込むマルウェアのツールなどもあった。

 10月20日、最前線の国境警備隊情報部隊を訪問し、諜報員らに演説するウクライナのゼレンスキー大統領 写真/共同通信
 10月20日、最前線の国境警備隊情報部隊を訪問し、諜報員らに演説するウクライナのゼレンスキー大統領 写真/共同通信
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ハイテク機器だけではない。CIAはGURの若い将校に、敵陣営でスパイを獲得する手段の訓練を施している。実際、FSBを含むロシア治安機関内に独自の情報網を構築したという。

ポスト紙がここまで公表してしまって大丈夫なのかと心配になるくらいだが、供与した最新機材・施設もほとんど無傷で運用されており、対ロシア戦でのCIAとウクライナ情報機関の共同戦線は今後も盤石なようだ。

取材・文/黒井文太郎